里山工学事始め

「里山工学」の提案

2017/12/13 国土情報処理工学研究室 室長・教授 高木方隆

これまで工学は、主に自然科学の力を産業に向けて使って来ました。
産業は効率化を求めて機械の導入と化石燃料の消費が始まり、分業化を加速させ、地域や国をまたがる複雑なサプライチェーンが生み出されました。一次産業の代表である農業ですら、化学肥料やハウス栽培だけでなく遺伝子組み換え技術も登場し、地域で完結する産業となっていないものがほとんどです。
運用資金が必要な産業に偏った社会は、貨幣価値が重視され、目に見えない価値が置き去りにされる傾向にあります。したがってこれからの工学は、本当に心豊かな社会を担う学問としても機能する必要があります。

現在は科学技術の発達に伴い、自然環境のモニタリングと自然現象の予測もある程度可能となっています。
センシング技術は、地上観測だけでなく、人工衛星・航空機・ドローンなどにも搭載され、グローバルからローカルなモニタリングを実現しています。
地理情報システムは、それら膨大なモニタリングデータのプラットフォームとして機能するだけでなく、社会経済データとリンクさせることで、地域の特徴を活かした政策立案のツールとなります。
例えば、様々な動植物の自生環境の変化が把握できれば、地域に適合した有用な動植物に着目した本来の一次産業が展開できると期待されます。

里山工学は、心豊かな社会実現のための工学技術の一つとして位置づけるもので、明るい未来の里山を再構築するための方法論を体系化するものです。
里山工学には、まず流域圏ごとに自然環境情報や歴史民俗情報のデータベースの整備が必要です。これにより地域環境の特徴が浮き彫りになります。次に、気候変動と生態系の変化を予測し、これまでの工学技術に基づいて歴史環境をベースとした土地利用計画と生活基盤設計を確立していきます。
明るい未来の里山は、自然・歴史などの地域環境を最大限に活かすべく、人々が学び、協働によって整備し、その恵が享受できてこそ成立するものと考えています。

里山工学の対象

これまでに取り組んできた課題を、あらためて里山工学という観点から整理すると、以下のような項目建てを考えることが出来ます。

自然環境の把握とモニタリング

地形・地質・土質
気象・水文
土地被覆と生態系
災害履歴とハザードマップ

歴史民俗情報のアーカイブと活用

地域信仰
土地利用
生産活動
権利と法制史

流域圏計画

気候変動と生態系の変化
生態系維持と収容人口
アグロフォレストリー
土地利用計画

生活基盤設計

住居と活動拠点
エネルギー自給
物流とネットワーク
健康と衛生
教育と就労