2021.2. 1学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

藤田教授らの研究グループが革新的な熱電性能向上の方法論を提案、新エネルギー社会実現への道を拓きました

大阪大学大学院基礎工学研究科の中村 芳明教授、高知工科大学 環境理工学群の藤田 武志教授、東邦大学 理学部の大江 純一郎教授、九州シンクロトロン光研究センターの小林 英一主任研究員らの研究グループは、革新的な熱電性能向上の方法論を提案し、環境調和型SiGe材料で最高の熱電変換出力因子(=(ゼーベック係数)2×(電気伝導率))を室温近傍で達成しました。

今回注目したシリコンゲルマニウム(SiGe)※1は、宇宙船の電源の熱電材料として、高温環境において熱エネルギーを電気エネルギーに変換することに利用されています。本研究では、室温近傍において、このSiGe材料の高性能化に成功しました。これにより、宇宙船の電源として高温で利用されているSiGe材料を改良することで、身の周りに膨大に存在する室温近傍の廃熱をエネルギー源として再利用可能となる"新エネルギー社会"の実現が期待できます。

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我々の身の周り(室温近傍)には、膨大な量の廃熱が存在します。熱を電気に直接変換することができる熱電材料は、駆動部が必要ないため小型かつメンテナンスフリーな新規グリーンエネルギー源として期待されています。熱電材料は、ゼーベック係数※2と電気伝導率が高く、熱伝導率が低い材料が高い熱電変換効率を示します。しかし、これら3つの物性値には互いに相関があるため、独立に制御することは至極困難でした。
これまで、ゼーベック係数の増大方法として、不純物を添加して共鳴準位※3を形成する戦略が有力視されてきましたが、同時に電気伝導率が低下してしまうため、高いゼーベック係数と高い電気伝導率を同時に実現することは難しいと考えられてきました。
一方で本研究グループでは、温度分布を制御することで母体熱電材料のゼーベック係数を保ちつつ電気伝導率を高める方法論を確立してきました(サーマルマネージメント法)。これは、母体熱電材料に対して高い電気伝導率を有する材料を添加することで電気伝導率を増大し、低い熱伝導率すなわち高い熱抵抗を有する母体熱電材料に大きな温度差が生じることで母体熱電材料のゼーベック係数を保つことができるという手法です。

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(図1SiGeとAuのコンポジット材料の走査型電子顕微鏡像と熱電変換出力因子の電気伝導率依存性)

本研究では、これまで確立してきたサーマルマネージメント法によるゼーベック係数を維持した電気伝導率増大効果と共鳴準位効果によるゼーベック係数の増大効果を融合することで、ゼーベック係数と電気伝導率を"同時に増大"させることを提案しました。この方法論の実証を狙って、SiGeとAuのコンポジット材料※4を作製しました。本コンポジット材料は、AuドープされたSiGeの領域(領域A:Au原子由来の共鳴準位による高いゼーベック係数、及びSiGe由来の低い熱伝導率)とAu結晶の領域(領域B:Au結晶の高い電気伝導率、及び高い熱伝導率)の2つの領域から構成されていることがわかりました(図1左)。温度差が印加された際、低い熱伝導率の"領域A"に主に温度差が生じることで、全体として、"領域A"由来の高いゼーベック係数を得ることができます。実際に、従来SiGeと比較して高いゼーベック係数と高い電気伝導率が同時に実現されていることが分かりました。
結果として、熱電材料から得られる電力の指標である熱電変換出力因子は、宇宙船に搭載のRTG(Radioisotope thermoelectric generator)に利用されているSiGe材料と比較して、室温近傍で3倍程度高い値を示しました(図1右)。

本研究成果は、2021年1月29日、英国王立化学会「Journal of Materials Chemistry A」(オンライン)に掲載されました。

藤田教授は「すべての試料作製を担当しました。熱電材料は粉末を焼結することで作られる場合がほとんどなのですが、このSiGe合金については急冷鋳造で作るという新しい試みを行いました。結果をだすことができて嬉しいです」と語りました。

プレスリリースはこちらから

【論文情報】
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A(オンライン)(英国王立化学会)
論文タイトル:"Anomalous enhancement of thermoelectric power factor by thermal management with resonant level effect"
著者:Shunya Sakane, Takafumi Ishibe, Kosei Mizuta, Takeshi Fujita, Yuga Kiyofuji, Jun-ichiro Ohe, Eiichi Kobayashi, and Yoshiaki Nakamura
論文URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/TA/D0TA08683E
DOI:10.1039/D0TA08683E

*1シリコンゲルマニウム(SiGe)
第14族元素のシリコンとゲルマニウムの化合物。

*2ゼーベック係数
材料に温度差を与えたときに起電力として変換される現象をゼーベック効果といい、その際の単位温度差あたりに発生する起電力のことをゼーベック係数という。

*3共鳴準位
材料に不純物を添加した時に、伝導帯のエネルギー中に形成される電子準位。適切なエネルギー準位に共鳴準位を形成することでゼーベック係数が増大する。

*4コンポジット材料
異なる2種類以上の材料を複合した材料。

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