2023.7. 5地域・一般 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

林准教授、松尾助教、池田さんの研究グループが、弾性分子結晶の光輸送機能を15倍以上に向上させることに成功

理工学群の林 正太郎准教授松尾 匠助教、池田 浩貴さん(大学院修士課程化学コース 1年・愛知県・私立愛知工業大学名電高等学校出身)の研究グループは、発光性の弾性分子結晶に異なる発光性分子(アクセプター分子)を1%-5%の割合でドーピングすることでFRET(Förster Resonance Energy Transfer)というエネルギー移動を起こし、その結果、導波光の自己吸収が大きく抑制され、従来の結晶と比べて15倍以上、光輸送機能を向上させることに成功しました。

小型で高効率な光通信システムを実現するために、物質の発光を利用した柔軟なアクティブ型光導波路の開発が重要です。しかし、発光が物質に閉じ込められ光輸送(導波)する際に、自己吸収が起こるため、その効率は決して高くありませんでした。

そこで本研究グループは、弾性分子結晶を利用したアクティブ型光導波路を開発することで、柔軟なアクティブ型光導波路を目指してきました。まず、9,10-ジブロモアントラセン結晶の弾性変形機能、発光機能に加え、減衰係数αを算出しました。この結果、結晶は、緑色発光性の弾性分子結晶(EMC)であり、α= 0.1258 /µmでした。減衰係数αは、結晶にレーザーを照射し、導波光を検出することで算出することができます。α値が低いほど導波効率・光輸送機能が高いと言えます。

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(本研究成果コンセプトのイメージ図)

分子結晶におけるドーピングは容易でなく、適切なアクセプター分子を選択する必要があります。本研究グループは、位置異性体を踏まえたスクリーニングを行った結果、アントラセンの9,10位に置換基を持つ化合物のみが結晶化過程において9,10-ジブロモアントラセン結晶に取り込まれることを特定することに成功。そこでアクセプター性分子として9,10-diformylanthraceneを選定し、1%-5%の割合でドーピングすることができました。発光特性は1%以上のドーピング率で橙色発光の弾性分子混晶(EMMC)でした。この色変化は、FRETに由来しており、ドーピング率が低いほど光輸送機能は高く、1%ドーピングのEMMCでα = 0.0077 /µmでした。FRETによって自己吸収を大きく抑制することで、従来の結晶と比べ15倍以上に光輸送機能が向上することを示しました。
本研究の進展により、効率的な光通信モジュールの実現に向けた具体的な開発が進むことが期待されます。

この成果は、2023年6月23日、Aggregate誌(Wiley-VCH)に掲載されました。

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(左から林准教授、松尾助教、池田さん)

林准教授は「この研究は、魅力的な弾性有機結晶にほんのちょっと異なる分子を入れたら更に魅力的な物質になるだろうと考えて始めました。池田くんは学部3年次生の頃から、フォトニクスが専門の松尾先生は昨年度から、この研究に参加し、多くのトライ&エラーによって、とても大きな成果へと育ててくれました。Aggregate誌はインパクトファクターが18.8と、化学系や材料系の中でも極めて高い評価を得ています。研究室の学生は非常にアクティブですので、これからもあっと驚く研究成果が発信できると確信しています」と期待を寄せていました。

【原論文情報】
タイトル:Flexible Förster Resonance Energy Transfer-assisted Optical Waveguide based on Elastic Mixed Molecular Crystals
(弾性分子混晶による柔軟なFRET型光導波路)

著者:Takumi Matsuo, Koki Ikeda, Shotaro Hayashi

掲載誌:Aggregate

掲載日:2023年6月23日

DOI:https://doi.org/10.1002/agt2.378

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