土木に建築、デザインを組み合わせ、長く愛される風景をつくる

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重山 陽一郎SHIGEYAMA Yoichiro

専門分野

景観デザイン

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土木と建築の一体化で生まれた唯一無二の景観デザイン

 土木構造物のデザイナーとして全国各地で活動する重山教授。例えば、宍道湖に沈む夕日を眺める名所として知られる島根県松江市の岸公園。重山教授はこの公園の設計に携わり、国、県、市の3つの主体が絡む場所を一体的な空間として整備し、市民や観光客に心地よい水辺を開放した。

「周りの景観を考慮した上でどうするか、というのが土木のデザインの肝心なところ。岸公園では建物、公園、水面、山並み、夕日という広い範囲のものを一つのまとまった風景にすることができました」

 すぐ後ろに建つのは島根県立美術館。岸公園が美術館と宍道湖をつなぐ空間になるよう、ゆるやかな芝生の土手が広がった湖を身近に感じさせる造りとした。宍道湖を眺める美術館の庭のようなデザインに、治水機能を一致させた数々の工夫が見られ、土木デザインの理想的な形と言えよう。

 「土木と建築が協力し合うことで実現した空間です」と重山教授。土木と建築が一緒によりよい空間をつくる。それは、土木と建築の両方を一体的に学ぶ本学の建築・都市デザイン専攻がめざすところでもある。

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その土地に最適な景観とは何か?これが土木のデザインの出発点

 2015年には、岸公園のそばに新たに整備された天神川水門を設計。治水上の機能を果たすと同時に、水都松江の代表的な景観にふさわしい湖畔風景の形成が求められた。そこで、目立たせないことをテーマとし、高い門柱が不要なゲート形式を採用。地上への構造物の突出と、ゲートや堰柱の存在感を極力抑えた。湖の増水時にはゲートを閉じて市街地の浸水被害を防ぐという機能を持ちながら、周辺の眺めは整備前とほぼ変わらない。

「土木構造物をデザインする時は、その場所で一番大事なことは何かを常に考えています。岸公園や天神川水門では、居心地の良い場所から夕日が美しく見えること。そこから、この場所に最適なデザインを導き出しました」

 ゲートの存在感を弱める上で効果を発揮しているのが、水門と並行して設置された点検・維持管理用の管理橋。隣接する二つの公園を結ぶ歩道橋としても機能し、歩行者は湖の景観をより近くで楽しめるようになった。

 また、水門操作室は景観を阻害しないよう、隣接する白潟公園内に設置。東屋風にして来園者が夕日を鑑賞できるよう縁側を設け、憩いの場としての機能も持たせている。

 さらに、水門自体の重厚な圧迫感を抑えるため、コンクリート構造部の表面は、洗練された印象を与える「はつり仕上げ」に。「建築工事ではポピュラーな仕上げですが、土木構造物では珍しい」と言う。このほか、中央部分の堰柱は傾斜した形状にしたり、管理橋の柵の柱も目立たないよう細くしたりと、細部まで工夫を凝らし、周辺景観との調和を図った。

「神はディテールに宿る」という言葉が示すように、ディテールは大切。松江市の中でも、このあたりはとても洗練された地域なので、普通は武骨になりがちな水門といえども、洗練された形を与えるとともに、違和感を感じる要素を極力減らすように、細かいところまで気を配る必要がある。

 土木構造物を形にする上で、土木をベースにしながら、建築やデザインの視点を盛り込むのが重山教授のスタイル。土木と建築を一体的に捉えるデザイナーはそう多くはないが、「両方を一緒に考えることで、人々の心に残るような景観になっていく」と言う。

「長くその地に残り、暮らしに寄り添うものだからこそ、土木におけるデザインの役割は大きい。土木と建築、デザインの掛け合わせによって、文化遺産として残したくなるような土木構造物をつくることが理想です」

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掲載日:2018年6月4日

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