健康維持をアシストする ウェアラブルなシステムで 元気に年を重ねられる世の中へ

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芝田 京子SHIBATA Kyoko

専門分野

計測・制御工学、メカトロニクス

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人と協調し、サポートしてくれるロボットやシステムを開発

急速な高齢化が進む中、医療や介護に依存することなく自立した生活ができる期間"健康寿命"を延ばすため、健康増進に向けたあらゆる取り組みが盛んに行われている。こうした現状において、芝田准教授は人々の健康維持を目的に、人と協調しながら人をアシストするロボットやシステムの開発を行っている。

「不調の症状というのはまさに千差万別。そのため、一人ひとりの健康状態に合わせたサポートが大切なのです。誰にでも合うものではなく、各個人の数値を測り、ユーザーに合ったサポートができるものを開発していきたいと思っています。もう一人の"かかりつけ医"のような存在と言えるかもしれませんね」

医療や福祉をはじめ、健康増進を目的としたロボットや機器には、高い実用性に加え、簡便さやコスト面への配慮が求められる。そこで芝田准教授が力を入れて開発を進めているのが、ウェアラブルでコンパクトなシステムだ。

その一つが歩行効率を高めるためのリアルタイム制御が可能なアシストシステム。いわば、"エネルギー効率のよい歩行"を実現するための装具だ。身体に取り付けたセンサーで歩行中の歩幅と歩調を測定することで、歩行のエネルギー消費量を推定し、歩行効率が悪い場合は歩行状態に応じたアシストを行い、効率のよい歩行に導くというもの。ユーザーのさまざまな歩き方に対応したセンシングを可能とするため、慣性センサーを取り入れたシステムを提案している。慣性センサーとは、慣性を利用して測定を行うデバイスのこと。昨今高性能化や小型化が進み、使用用途が拡大している。こうした手軽に使える先端技術を活用しながら、実用化に向けて動いている。

ここからは、人々の健康を支える芝田准教授の研究をもっと詳しく見ていこう。

専門医に頼らず、自宅で計測 ロコモ度チェックをもっと手軽に

近年よく耳にする"ロコモティブシンドローム"。骨・関節・筋肉・神経といった運動器の障害によって移動機能の低下をきたした状態のことを指す。進行すると要介護や寝たきりのリスクが高まる状態とされ、健康寿命を短くする原因の一つと言われている。芝田准教授は、この危険性を判定する「ロコモ度テスト」の計測項目の一つで、二歩大股で歩くという「2ステップテスト」を個人で手軽に実践し、評価できるシステムを開発中だ。
腰の中央に慣性センサを一つ取り付け、二歩歩くことで加速度を測り、得られた情報をもとに歩幅とふらつき具合を算出するという仕組みだ。

「計測した加速度の波形データをそのままユーザーに提供しても、見た人はピンと来ませんよね。なので歩幅やふらつき具合を数値として提供することで、誰が見てもわかりやすいものにしていきたいと考えています」

この仕組みが実用化できれば、専門医に頼ることなく、自分の力で簡単に計測することが可能になる。

「スマートフォンなどで手軽に数値をチェックできるようにすれば、現在の自分の状態をいつでも確認できるので、健康意識の高まりも期待できます」

今後はこの研究をさらに発展させて、計測したデータをもとに、自宅にいながら専門医の診療結果をチェックできるような仕組みを考えていきたい。

自らの意思で姿勢を改善できる新しいサポートシステム

不調に困っているのは高齢者だけではない。例えば、世界で多くの人が苦しんでいると言われる腰痛。日本では8割以上の人が生涯において腰痛を経験し、約10人に一人、すなわち1000万人以上が腰痛に悩んでいる。その主な要因の一つに、車の運転やデスクワークなど長時間同じ姿勢をとることによる腰への負担の増加があげられる。作業に集中していると無意識に姿勢が崩れ、腰に負担の大きい姿勢に陥りがち。つまり、腰痛を未然に防ぐためには、正しい姿勢を保つことが重要なのだ。とはいえ、正しい姿勢を、鏡を見ずに感覚で捉えるのは非常に難しい。それならば、自分の身体で正しい姿勢を覚えることができるシステムをつくりたいーー。そんな思いが発端となり、芝田准教授は習慣化した悪い姿勢への意識的な改善を促す、腰痛予防システムの開発を進めている。

普段の生活をしながら自分の姿勢を自覚し、改善につなげることができれば、腰痛だけでなく、病気の予防や健康促進にもつながる。そこで、日常生活の妨げにならないような小型のセンサーを腰や背中などに装着し、骨格系への歪みを誘発すると考えられる長時間の同じ姿勢や、ゆっくりと崩れていくようなほぼ静止している姿勢について連続的にセンシング。時間の経過とともに姿勢がどのように変わっていったのかを、いわゆる腰痛になりにくい良い姿勢との差分によって計測する。一連の姿勢データはネットワークを介してクラウドサーバー上に保存でき、パソコンやスマートフォンで閲覧できるようにするとともに、腰に負担の大きい姿勢が発生した時には、ユーザーにリアルタイムで通知する。こうして本人への自覚を促すことで、自らの意思で正しい姿勢へと改善できる画期的な支援システムの実現が目標だ。

さらには長期間記録した姿勢データを整形外科医などの専門家が解析することで、ユーザー特有の姿勢のクセと生活習慣の因果関係を明らかにし、個人にあった姿勢改善のアドバイスの提供につなげていきたいと考えている。

もちろん、こうしたシステムの実用化に不可欠な操作の簡単さや手軽さ、小型化への配慮も万全だ。

「身に付けていることを忘れるくらい、いかに少数の小型センサーで測定できるかが大切です。今は少数のセンサーをどこにどう装着するのが最も効果的なのかを探っているところです」

全身が関わる姿勢は、健康の肝というベきもの。だからこそ、芝田准教授はこのテーマに力を注いでいる。

「このセンサーの実用化によって、日本人の姿勢の変化に関するデータを蓄積し、姿勢の崩れ方の特徴を捉えることができれば、飛行機や自動車などの座席シートの設計やデザインに還元できるだろうと期待しています。座った人の姿勢の崩れを認識し、正しい姿勢に戻すようサポートしてくれる、夢のようなシートが実現するかもしれません」

このような健康増進のためのウェアラブルなセンサーの開発は近年大きく進展している。高齢化とともに、ますますその需要は増していく。

「例えば歩行が難しくなると、すぐに車いすという選択をしてしまいがちですが、回復のための選択肢を増やすことで、それらを回避できると思うのです。こうしたセンサーを実用化することで、病院に頼ることなく、元気に年齢を重ねる人が増えてほしい。そう願っています」

先進的な技術を駆使した新しいアイデアで、健康な世の中の実現をめざしていく。

掲載日:2016年4月1日

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