超低周波音を防災につなげる世界初の「津波センサー」を開発

山本 真行YAMAMOTO Masa-yuki

専門分野

宇宙計測工学、超高層物理学、画像音声情報処理

詳しくはこちら


NASAやJAXAと共同で、宇宙と地球の境界領域における観測や実験など数々のミッションに挑み、成果を上げてきた山本 真行教授。電子・光の工学技術と宇宙に関わる理学研究の融合をめざし、地球周辺の宇宙の観測やデータの解析だけでなく、観測装置の開発にも力を入れてきた。その一つが、津波の発生を検知し、規模や到達時間などを正確に把握する「複合型インフラサウンド津波センサー」だ。災害をもたらす大規模な自然現象によって発生し、はるか遠方まで伝わる性質を持つインフラサウンド。その性質を防災に生かすことで、精度の高い津波防災システムの構築をめざしている。
理学と工学の融合から生まれたインフラサウンド津波センサー

 インフラサウンドとは、人間には聞こえない超低周波音のこと。地震や津波、火山噴火など災害を起こす地球物理学的変動に伴って発生し、大規模な現象では1,000kmを超える遠方まで届くこともある。山本教授は「音波は津波よりも速く進む」ことに着目し、「津波が発するインフラサウンドが地域防災に役立つのではないか」との考えから、2007年に防災を軸にしたインフラサウンドの研究を始めた。2015年には、津波のインフラサウンドを捉え、津波到来前に、波形の周期と振幅の大きさから津波の規模などを推算できる「複合型インフラサウンド津波センサー」を計測器・音響機器メーカーの株式会社サヤ(千葉県)と共同で開発。津波に特化したインフラサウンドセンサーとしては世界初となった。

_X0A7405.jpg

 「複合型」という名の通り、このセンサーには、気温、気圧、騒音、加速度など複数のセンサーを搭載。人工的な騒音や振動、気象現象による気圧の変動などを同時に測定することで、津波のインフラサウンドとそれ以外の現象に起因する音を区別して検出できる。また緊急地震速報との連携も可能で、搭載された加速度計で地震波の到来を検出し、その後にインフラサウンドの到来を待つ3段構えで、着実に津波のインフラサウンドの信号を捉える機能を有する。
 従来の津波センサーのほとんどは海洋設置型で、設置や運用には莫大なコストがかかる。一方、このセンサーは陸上に簡単に設置できるため、設置や運用のコストが大きく抑えられるなどのメリットがある。
 さらに画期的なのは、インフラサウンドがセンサーに到達した瞬間に、その波形から津波発生時の海面変動の高さ、平均エネルギーを特定し、正確な「津波マグニチュード」を算出できる可能性が高まったことだ。従来のセンサーは、発生した津波そのものを測定しているのではなく、地震の規模をもとに過去の事例から最も近いデータを用いて計算し、津波規模を予測しているに過ぎない。東日本大震災時は、マグニチュード9クラスの過去データが存在せず、実際の津波よりも低く想定されたことが、被害の拡大につながった。
「実際に発生したインフラサウンドを観測できるメリットを活かし、既存の津波防災システムを補完する形で津波警報の精度を高めていきたい」と語る。

大規模災害時にも通信可能な防災IoTセンサーネットワークの実現へ

 津波のインフラサウンド観測網の構築に向けて、現在までに高知県内15カ所を含む全国計30カ所にセンサーを配備。各観測地点で、台風や土砂災害などの自然現象も観測対象としたモニタリングを続けてきた。この結果、前線や台風の列島縦断など顕著な気象変化に起因する信号について、その時空間変化を詳細に追うことに成功。これらは、津波防災への阻害要因となり得る気象変化によるノイズを定量化するうえで大きな成果だ。
 インフラサウンドを津波防災に活かす科学技術的イノベーションの基礎段階はほぼ完了したと言える。今後は防災・減災をめざす国家規模の事業として、全国的なインフラサウンド観測網の構築と津波マグニチュードの早期算出・伝達を実現する実証段階に入ることが期待される。
 津波マグニチュードの正確な算出には、センサーの設置箇所が多ければ多いほど、設置地点の間隔が密であればあるほど効果的だ。そこで2019年、山本教授らが中心となって、全国でインフラサウンド観測を行う研究機関や大学とともに、「インフラサウンド研究コンソーシアム」を発足させた。現在、本学における観測地点は30カ所だが、全国の観測地点を合わせると約100カ所になる。インフラサウンドをテーマとする研究者が互いに連携し、データを共有することで、研究の飛躍的な進展につなげていこうとしている。

_X0A5331-thumb-800xauto-11377.jpg

「総合研究所内にインフラサウンド研究室を持つ本学がリードしながら、国レベルの防災の活用につなげていきたい。地震計は全国におよそ2,000点あり、それによって精度の高い緊急地震速報が実現しています。津波においても、近い将来そのレベルにまで達することが目標です」
 山本教授の取り組みはこれだけに留まらず、新たにセンサーの小型版を開発し、日常的に起こり得る土砂災害などへの防災にフォーカスした研究にも着手。大学が立地する高知県香美市を中心に約30カ所に小型センサーを密に配備し、実証研究を進めていくところだ。
 さらに、災害発生時に電力・通信インフラが喪失しても、観測点から津波防災に必要な情報のみを抜き出して圧縮送信できる通信システムの開発も進めており、これらの技術的な成果を融合した強靭な防災IoTセンサーネットワーク構築への道も拓けてきた。
「産官学の連携によって、国家規模の津波防災や土砂災害などの地域防災に役立つシステムの整備に全力を尽くしたい」と力を込める山本教授。日本だけでなく、世界の海洋国における大規模災害から人命を守るため、日本発のイノベーションとして海外への展開も見据えている。

_X0A5290.jpg

掲載日:2020年12月