2020.1.29学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

藤田教授らの研究グループが温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換することに成功しました

東京工業大学 物質理工学院 材料系の庄司 州作さん(博士後期課程 3年)と宮内 雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部 英樹主席研究員、本学の藤田 武志教授(環境理工学群)、九州大学大学院工学研究院の松村 晶教授、静岡大学の福原 長寿教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応(ドライリフォーミング)を起こすことができる光触媒*1材料の開発に成功しました。

本研究成果により、天然ガスやシェールガス*2の有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると展望されます。また、低温で合成ガスを製造することができるため、これまでの工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望めます。

(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察画像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察像.jpg

(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察画像、(b)同光触媒粒子の高倍率観察画像

ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応ですが、この反応を効率よく進行させるためには800℃以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒疑集ならびに炭素排出反応(副生成物としてすすが出ること)による劣化の問題から実用には至っていませんでした。

開発した光触媒は、チタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されており、紫外線照射すると、加熱をしない条件でも50%を超えるメタンと二酸化炭素転換率を示しました。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500℃以上の加熱が必要になることから、本研究グループが開発した光触媒の性能の高さがわかります。

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触媒活性の温度依存性(濃度1%のメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)

次に、ドライリフォーミング反応のメカニズムを明らかにするための詳細な解析を行い、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにしました。従来、光触媒反応である水の分解や二酸化単と還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていましたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応であり、様々な気相反応への展開が期待できます。

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光触媒によるドライリフォーミングの反応機構

藤田教授は、自身の専門である電子顕微鏡分野から、触媒探索とナノ構造解析ならびにプロジェクトの主たる共同研究者として参画しています。「地球温暖化がおよぼす影響が拡大しているなか、二酸化炭素の増加に歯止めをかける画期的な光触媒を開発することができました。本成果が大きな起爆剤になることが期待できます。今後も一つずつ課題を解決し、実用化を目指します」と抱負を語ってくれました。

研究成果は、2020年1月27日に英国科学誌「Nature Catalysis」の電子版に掲載されました。

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【論文情報】
掲載誌:Nature Catalysis
論文タイトル:Photocatalytic uphill conversion of natural gas beyond the limitation of thermal reaction systems
著者:Shusaku Shoji, Xiaobo Peng, Akira Yamaguchi, Ryo Watanabe, Choji Fukuhara, Yohei Cho, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Min-Wen Yu, Satoshi Ishii, Takeshi Fujita*, Hideki Abe*, Masahiro Miyauchi*
DOI:10.1038/s41929-019-0419-z

*1光触媒
光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。

*2シェールガス
粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料のひとつ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。

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