2020.3.18卒業生 / 在学生・保護者 / 地域・一般

卒業生への祝辞

卒業式・学位記授与式中止に伴い、卒業生への学長からの祝辞を掲載しました。


学長からの祝辞

本日、本学の教育課程を修了し、学位を取得された皆さんに対し、本学の教職員を代表して心からお祝い申し上げます。また、ご両親をはじめとするご家族、ご関係の皆様など、学位取得者の皆さんをこれまで支えてくださった方々には、お祝いとともに深くお礼申し上げます。この美しいキャンパスに建つこの講堂から、インターネットを通して、おめでとうという気持ちを是非お伝えしたいと思います。今日、博士9名、修士128名、そして学士514名の皆さんに学位を授与できることを、私は大変うれしく感じています。これだけの人材が育ったことを誇りに思っています。そして、成長した皆さんが4月から新しいステップに進み、大活躍されることを祈っています。

今、新型コロナウイルス感染症の影響で、皆さんに直接お祝いの言葉を述べることができません。これまでも、一国に始まった感染症が国際的に広がった例として、SARSやMERSがあり、経済面では世界恐慌、オイルショック、リーマンショックなどの危機を経験しています。そして今回は、世界中で健康を脅かすとともに、経済や日常生活にも重大な影響を及ぼしています。これにより、世界全体からすればごく一部の地域に過ぎない高知県でも、多大な影響を受けています。地域と言っても、世界を見なくてはならないのが国際化の進む現代の社会です。

もちろん、国際化は国際社会に大きな恩恵をもたらしてきました。原理的に言えば、農産物や地下資源、工業製品、サービスなどを、得意な国が生産し、貿易を通じてそれを交換し合うことによって、欲しい国で容易に手に入るシステムを築いてきました。自国にはないものを食べ、生産できない機械を使うことができます。また、外国の人と交流したり、外国を旅行することにより、多くのことを学び、楽しむことができます。国際化による恩恵は数え切れません。今後も新たな恩恵を求めて、国際化の流れは加速するでしょう。日本で働く外国人が増え、その人たちが日本に住み、家族を持ち、やがては日本人になるという日も遠くないかもしれません。

そのような流れの中で、国際化の長所を生かし、逆に負の側面を抑えることが重要です。国際化には、共存共栄という面とともに、共倒れという面が潜んでいます。共存共栄を促進し、共倒れをいかに防ぐかということのための方法論が必要です。そして、これからそれを実現するのは皆さん一人一人の能力と実行力です。

これを具体的にどうすればよいのか、私ははっきりとした答えを持ち合わせていません。しかし、少なくとも、世界の現実を知り、世界と地域との関係に至るまでの仕組み、システムを理解することは重要です。本学の教育研究では、国際化への対応を積極的に進めてきました。留学生を受け入れて教育し、修了後にはその多くが大学教員などとして教育研究に従事しています。また、日本人学生が海外で研修したり、留学する機会を提供し、海外での生活を体験してきました。広い視野を持ち、社会を俯瞰できる人間になってほしいというのがその動機です。

さらに、国際化した社会では、自立して自ら深く考えることが重要です。自分の判断基準を持たず、目的意識もないままに、受け身になって社会の流れに身を任せるのでは、社会から存在意義を認められず、自分の居場所を失うことにもなりかねません。また、短期的に、安易な利便性を求めるとか、一時の収入が欲しいとかという、目前の利益にとらわれて判断し行動すると、あとで思わぬ悪影響を被ることがあります。短期目標だけを見ていたのでは、長期的にどこへ行ってしまうのかわかりません。長期的な、人生を通じた目的、たとえば世界平和であったり、革新的な研究であったり、持続可能社会であったり、皆さんの価値判断の基準となる大きな目的が必要です。だからと言って、長期的な目的はあまりに抽象的で、日常的な活動で使えるようなものではありません。

そこで、長期的な目的、短期的な目標を合わせもって行動するというのが、一つの方法であると思います。短期目標があれば、その実現に向かって具体的に努力することができ、事を成し遂げることができ、それが皆さんの成長にもつながります。その積み重ねにより、能力が向上し、視野が広がったとき、長期的目的に照らし合わせて、短期目標を軌道修正することもできるでしょう。また、様々な事情により、設定された短期目標が、時によってやむを得ず、長期的なあるべき姿への方向からそれることもあるでしょう。その様な時に、長期的な目的を見失わずに持っていれば、徐々に短期目標の方向を修正していくこともできるし、そのことが皆さん自身の中の矛盾との葛藤を乗り越える知恵になるかもしれません。世の中の不条理にさいなまれる時の助けになるかもしれません。

これからも続くであろう国際化という大きな流れの中で生きていく皆さんであるからこそ、自己を失わずに自立することが重要です。皆さん自身の人生を通じた目的を持ち、皆さんの能力をもってそれに立ち向かって努力し、それを実現できるようになること、そして皆さんの人生が充実したものになることを心からお祈りして、私からのはなむけの言葉といたします。

令和2年3月18日

高知工科大学長 磯部 雅彦

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