2020.5. 1学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

藤田教授らの研究グループが熱電変換デバイスの高効率化実現への道筋を拓きました

東北大学金属材料研究所水口 将輝准教授研究グループは、本学の藤田 武志教授(環境理工学群)らグループとの共同研究によって、Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜(*1)において、磁場中の熱電変換効果の一つである「異常ネルンスト効果」(*2)と呼ばれる熱磁気効果(*3)の大きさが、酸化マグネシウム (MgO)の組成量に応じて大きく変化することを発見しました。

本研究で熱電変換素子への応用に用いた異常ネルンスト効果は、古くから知られた現象ですが、変換効率が低いことから発電への応用などにはあまり活用されてきませんでした。熱流の方向と電力を取り出すための電極の方向が垂直関係にある異常ネルンスト効果は電力の取り出しが熱勾配に影響されないことから、理想的な熱電変換技術といえるため、風力や太陽光など身の回りのエネルギーを利用する環境発電(*4)の分野などで注目を集めています。

図1異常ネルンスト効果の測定方法.jpg
Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜の異常ネルンスト効果の測定方法

熱磁気効果をもつ磁性体を効率的に発電に利用するためには、材料に内在するナノ構造を制御することにより、その変換効率を向上する技術が必要であることが提案されていますが、その開発はあまり進んでいませんでした。そこで本研究グループは、熱磁気効果をもつ磁性体として、コバルト (Co) 薄膜に絶縁体である酸化マグネシウム (MgO) のナノメートルサイズの微粒子を分散させたグラニュラー薄膜材料を利用することに着目しました。MgOの添加量を様々に変えて高品位なグラニュラー薄膜を作製し、熱から電圧への変換効率がMgOの添加量に依存して大きく増加することを発見しました。

図3MgO添加量依存性.jpg

Cox(MgO)1-xグラニュラー薄膜の異常ネルンスト角および異常ホール角のMgO添加量依存性

今回作製したグラニュラー薄膜材料を用いれば、例えば絶縁体の添加量を適切に選択するだけで、熱電効率を自由に制御することができます。これにより、発電素子を設計する際、材料選択による自由度が生まれ、より効率的な熱電素子の開発、環境発電技術への幅広い応用が想定されます。また、これまであまり熱電変換素子(*5)などに活用されてこなかったグラニュラー薄膜ですが、その材料選択性の大きさや、材料作製の容易さから、新しい研究対象の材料としても期待されます。

藤田教授は「本研究では、微細構造解析を担当しました。異常ネルンスト効果による熱電材料は新しい分野です。今回は薄膜試料ですが、バルク材での開発にも取り組んでおります」と語りました。

本研究成果は、2020年4月7日、米国物理学協会が刊行する「Applied Physics Letters」に掲載されました。

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【論文情報】
掲載誌:Applied Physics Letters(米国物理学協会)
論文タイトル:Anomalous Nernst Effect in Cox(MgO)1-x Granular Thin Films
著者:P. Sheng, T. Fujita and M. Mizuguchi
DOI:10.1063/1.5140461

*1グラニュラー薄膜
母相(マトリックス)材料の中にナノメートルサイズの微小な粒子が多数分散した構造を有する薄膜についての総称。特異な電気伝導現象が生じることが多い薄膜です。

*2異常ネルンスト効果
磁化した磁性体に熱流を流した際、磁化の向きと熱流の向きの外積方向に電圧を生じる現象。電圧の向きと大きさは磁性体の材料ごとに異なり、材料が持つ異常ネルンスト係数の符号と大きさによって決まります。

*3熱磁気効果
金属や半導体に温度勾配による熱流があるとき、外部から磁場をかけると電位差や温度差が生じる現象。熱流磁気効果と呼ばれることもあります。

*4環境発電
照明や振動、廃熱、体温、電磁波等の身の回りのエネルギーを利用して電力に変換する発電方法。エネルギーハーベスティングとも呼ばれ、近年、環境意識の高まりと省電力デバイスの普及により、これまで利用されていなかった環境中のエネルギーを利用することが注目されています。

*5熱電変換素子
ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果などの熱と電気を関係づける現象を利用した素子の総称。例えば、2種類の異なる金属または半導体を接合して、両端に温度差を生じさせると起電力が生じるゼーベック効果は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する現象であり、ゼーベック素子に応用されています。

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