2021.7. 1学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

篠森 敬三教授らの研究グループが淡い色により知覚されるコントラストが減少するメカニズムを解明

情報学群/総合研究所 視覚・感性統合重点研究室の篠森 敬三教授は、金沢工業大学情報フロンティア学部メディア情報学科の根岸 一平准教授との共同研究により、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)による計測と、被験者にコントラストを区別してもらう心理物理実験を行い、コントラストの印象を決める明暗情報を伝える輝度信号は、周りに鮮やかな色(彩度の高い色)を出すよりは、淡い色(彩度の低い色)を出す方が、より強く抑制されること、つまり脳内においては強い色信号よりも弱い色信号の方が、輝度信号を抑制する効果が高いことを、世界で初めて示しました。
本研究成果は、2021年6月28日Frontiers Media S.A.が刊行するFrontiers in Neuroscienceに掲載されました。

色あせた写真を見ると、写真全体で境界線の印象が弱い、つまりコントラストが低い印象を受けます。この現象は経験的には昔からよく知られておりましたが、写真の経年変化によって色が薄くなったのと同様に境界でのコントラストも下がった、などと考えられてきており、何故その様な見え方になるのかは明らかではありませんでした。

本研究では、まず脳計測実験として、被験者13名の視野の中に複数の円形色刺激を呈示し、その色刺激の彩度を4段階に変化させて、刺激観察中の脳活動の大きさをfMRIを用いて計測しました。その結果、色刺激の彩度がクロマ値 /0(無彩色)のときに脳活動は最大となり、その他の3つの条件では彩度が小さい(淡い色)ほど脳活動も小さくなるという結果が得られました。

★8B0A1886 (2).JPG

このとき、計測された脳活動に最も影響していると考えられたのは視野の大部分を占めている無彩色の輝度パターンであったため、淡い色が呈示されているときには輝度に対する脳活動が抑制されているのではないかと考えました。確認のために背景の輝度パターンを取り払った黒背景の刺激を用いて同様の実験を行ったところ、彩度の違いによって脳活動に有意な差は見られず、淡い色が輝度に対する脳活動を抑制しているという説を裏付けています。

図.png

さらに、この脳活動の違いと知覚との対応を調べるために、先ほどと同じ円形の色刺激を呈示した状態でのコントラスト感度を、心理物理実験によって測定しました。その結果、やはり淡い色(彩度がクロマ値 /2)を呈示した際、他の条件よりもコントラスト感度が有意に低下しており、淡い色が輝度に対応した脳活動を抑制するという先ほどの説と一致した結果が得られました。

★8B0A1926 (2).JPG

この結果から、色の薄いパステルカラーを多用したデザインでは、色の印象の弱さを心配しなくてよい一方で、コントラストの印象が弱くなることに配慮しなければならない、など様々な色デザイン分野への応用が期待されます。      
今回の実験では色刺激の彩度を一律に変えましたが、異なる彩度の色が同時に存在するより現実に近い場面でこの現象がどの様に働くかを調べ、実際のデザインへの応用を目指します。

篠森教授は「マスク効果を除外して、色と輝度が重なっていない時に、弱い色の方が輝度コントラストをさげるという理屈を科学的に解明でき大変嬉しく思います。今後は、彩度をどこまで下げれば脳活動の抑制がかかるのかという研究テーマに挑戦していきたいです」と語りました。

プレスリリースはこちらから
本論文オープンアクセスです。こちらからご覧いただけます。

【論文情報】
題名:Suppression of Luminance Contrast Sensitivity by Weak Color Presentation
誌名:Frontiers in Neuroscience
著者:根岸一平 (金沢工業大学)*、篠森敬三 (高知工科大学)*
*連絡著者 (corresponding authors)

RELATED POST

関連記事