2026.7.27学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

水質汚染物質をクリーンエネルギーに変える!"一石二鳥"の「自己適応型」新触媒を開発

 高知工科大学のユアン チュンユさん(大学院博士後期課程3年)、伊藤 亮孝教授(理工学群)、藤田 武志教授(理工学群)と、名古屋大学の大戸 達彦准教授(工学部)らの研究グループは、銅とコバルトからなる自己適応型触媒*1を設計し(図1-(a))、水質汚染物質である硝酸イオンを電気化学的にアンモニアに変換する硝酸電解還元反応*2において、きわめて効率的かつ安定的なアンモニア合成に成功しました。
 電極触媒は一般に、反応中における構造の劣化や変化が課題とされていましたが、研究グループは高度な測定技術と理論計算を組み合わせることで、本触媒が自ら活性の高い状態へと進化する「自己適応型再構築」を起こす詳細な過程を世界で初めて解明しました。

 今回開発した技術は、農業排水や工業排水に含まれる有害な硝酸を除去し、脱炭素社会の鍵を握る資源であるグリーンアンモニア*3を回収できる「一石二鳥」のクリーン技術として、応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年7月13日、材料科学や物理学、医学など、分野横断的な研究を扱う国際学術誌Advanced Scienceに掲載されました。

【ポイント】

  • 反応中、自ら最も活性が高い構造(水酸基を多く含む酸化Cu活性種)へと進化する「自己適応型」新触媒を開発
  • 高効率アンモニア合成を実現させる「銅」と「コバルト」の連携メカニズム(水素スピルオーバー*4)を解明
  • 「水質浄化」(硝酸除去)と「資源回収」(アンモニア合成)を常温・常圧で同時に達成
  • 常温・常圧で触媒を製造できるため大量生産が容易であり、二酸化炭素還元や水電解など、他分野への応用も期待

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▲図1 (a)開発した銅コバルト酸化物触媒の電子顕微鏡像(低倍)
(b) 銅とコバルトからなる異相界面構造の拡大図と元素マッピング。酸化銅(CuO)は結晶相であるが、酸化コバルト(CoOX)はアモルファス構造*5になっている。

[プレスリリース]水質汚染物質をクリーンエネルギーに変える!"一石二鳥"の「自己適応型」新触媒を開発

 本研究は、東北大学金属材料研究所新素材共同研究開発センター共同研究(Proposal No. 202512-CRKEQ-0012)とPSI (Peace & Science Innovation Ecosystem) GAP ファンド (PSI2025_S1C52)の一環で行われました。

コメント

ユアン チュンユ さん
This work would not have been possible without the unwavering guidance, constant encouragement, and wholehearted support of Professor Takeshi Fujita, to whom I am sincerely grateful. I would also like to thank all of my collaborators for their valuable contributions, as well as the reviewers for their helpful comments during the review process. Although there are still aspects of this work that warrant further investigation, this study provides a solid foundation for future research. Moving forward, I will focus on the development of more efficient electrocatalysts and a deeper understanding of their dynamic structural evolution and catalytic behavior under operating conditions.
【日本語訳】
本研究は、藤田武志教授の終始変わらぬご指導と温かい励まし、そして惜しみないご支援があったからこそ実現することができました。先生には心より深く感謝申し上げます。また、共同研究者の皆様の多大なるご協力、ならびに査読者の皆様からいただいた貴重なご意見にも心より感謝いたします。本研究は一つの到達点ではなく、新たな研究の出発点でもあります。今後は、より高性能な電極触媒の開発に取り組むとともに、実際の反応環境下における触媒の動的構造変化や触媒挙動の理解をさらに深め、エネルギー変換技術の発展に貢献できるよう研究を続けてまいります。

伊藤 亮孝 教授
触媒自らが反応に応じて変化するという興味深い振る舞いによって硝酸イオンを利用する反応が達成されました。反応により得られたアンモニアは人類の活動を支える重要な物質のひとつであり、ハーバー・ボッシュ法に代わる合成法が近年大いに注目されているために今後の発展が期待されます。

藤田 武志 教授
硝酸は水質汚染の原因となる一方で、アンモニアの原料にもなり得る『未利用資源』です。本研究では、この硝酸を価値ある資源へ変える新しい触媒を開発しました。触媒が反応中に自ら最適な状態へ進化するという発見は、これまでの触媒設計の考え方を一歩前に進める成果だと考えています。環境浄化と資源循環を同時に実現する技術として、社会実装につなげていきたいと思います。

用語解説

*1) 自己適応型触媒(Adaptive catalyst)
反応条件に応じて、自ら表面構造や化学状態を変化させ、最も活性の高い状態へ変化する触媒。本研究では、銅表面が水酸基を含む酸化状態へ動的に再構築されることで、硝酸からアンモニアへの変換性能が大きく向上することを明らかにした。

*2) 硝酸電解還元反応(NO₃RR: Nitrate Reduction Reaction)
電気エネルギーを利用して硝酸イオン(NO₃⁻)をアンモニアなどへ還元する反応。常温・常圧で反応が進行し、水質汚染物質である硝酸の除去と、有用なアンモニアの製造を同時に実現できることから、環境浄化とグリーンアンモニア製造を両立する次世代技術として注目されている。

*3) グリーンアンモニア
再生可能エネルギー由来の電力を利用して製造される、CO₂排出量の少ないアンモニア。次世代エネルギー媒体として期待されている。

*4)スピルオーバー
隣接する別の材料表面へ移動する現象。本研究ではコバルト酸化物で生成した活性水素が銅活性点へ供給され、アンモニア生成を促進している。

*5) アモルファス構造
原子が規則正しく整列した「結晶」とは異なり、原子がランダムで不規則に並んだ状態のこと。ガラスやゴムなどが代表例。規則的な格子を持たない不規則な構造ゆえに、化学反応の起点となる「活性サイト(反応の隙間や未結合の手)」が表面に多く露出するため、結晶構造に比べて化学的な反応性や触媒活性が非常に高くなりやすいという特徴がある。本触媒では、酸化コバルトがこの構造をとることで、高い水分解能(活性水素の供給力)を発揮している。

掲載論文

タイトル:Adaptive Cu Reconstruction in Heterostructure Drives High-Rate Nitrate-to-Ammonia Conversion
著者:Chunyu Yuan, Saikat Bolar, Yongzheng Zhang, Akitaka Ito, Tatsuhiko Ohto and Takeshi Fujita
掲載誌:Advanced Science
公開日:2026年7月13日
DOI:10.1002/advs.76573

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