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波多野 文客員研究員、繁桝 博昭教授、村山 航客員教授らの共同研究グループが、"待つことは意外と楽しい"ことを実験で明らかにしました

本学の客員研究員で株式会社イデアラボの波多野 文研究員、レディング大学の Cansu Ogulmus (博士後期課程)、本学の繁桝 博昭教授、本学の客員教授でテュービンゲン大学の村山 航教授の共同研究グループは、人が何もせずにただ待たされることを過度に退屈で楽しくないと考えており、そのためにネットサーフィンなど外部から刺激を受けることを好んで選択することを発見しました。
この研究はアメリカの学術誌Journal of Experimental Psychology: Generalの速報版で7月28日に発表されました。

私たちは電車やバス、病院、役所など、様々な場面で待たされ、待ち時間をやり過ごすために本を読んだり、スマートフォンでSNSやネットニュースを見たりします。このような行動は、私たちが「何もせずに待つこと」を「つまらない」「楽しくない」と考えており、「何もしないこと」を避けるために取っていると考えられます。実際に、先行研究では、人が何もせずに過ごすことを苦痛に感じ、それを避けるために電気ショックなどの不快な刺激すら求めてしまうことが指摘されています(Wilson et al., 2014)。

ただし、これまでの研究で、やる気の推測は不正確であると指摘されており(Murayama et al., 2016)、金銭的報酬などのわかりやすい手がかりが無い状態では、正確なやる気の予測が難しいと考えられます(Murayama, 2022)。そのため、ただ待つことは読書やネットサーフィンなど他の活動に比べてやる気や楽しさを予測する手がかりが少なく、待つことを過度につまらないと予測すると仮説をたてて実験しました。

実験の参加者に①これから決められた時間何もせずに待つこと、②待つ間はスマートフォンを見たり、歩いたり、眠ったりはできず、ただ自由に考えごとをしながら過ごしてほしいことを説明し、待つことがどの程度楽しいと思うかを予測してもらいました。その後別室に移動し、実験者が迎えに来るまで1人で過ごしてもらいました。最後にもう一度実験室に戻ってきてもらい、実際に待つことがどの程度楽しかったかを評価してもらいました。

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(図1 待つことに対する予測の動機づけ評価と実際の動機づけ評価。灰色の点は各参加者の評定値。太線のバーは標準誤差。黒丸は平均値を示す)

予測された楽しさ(課題への動機づけ)は、実際の楽しさよりも低く評価されていることがわかりました(図1)。この結果は、予測と実際の評価を別の人がやった場合、真っ暗で音が聞こえにくい状況で待った場合、待つ途中で実際の評価を行った場合でも変わりませんでした。これらの結果は、予測という行為そのものが実際の待つことへの評価に影響しているわけではないこと、外部からの刺激を極力減らした場合でも予測以上に待つことを楽しめること、待つという課題が終わったことの開放感から実際の楽しさが高く評価されているわけではないことを示唆しています。

さらに、待ち時間を選択できる場合(3分か20分)、いずれの場合も予測より実際の動機づけの方が高く評価されたにも関わらず、短い待ち時間が好まれる(参加者の70%が短い待ち時間を選択)こと、待つか他の活動(ネットニュースの閲覧)を選択できる場合は待つことが避けられやすい(参加者の87%がニュース閲覧を選択)ことも明らかになりました。

また、待つだけ条件では予測の動機づけよりも実際の動機づけが高く評価されたのに対し、ネットニュース閲覧条件では予測と実際の動機づけに差がありませんでした(図2)。すなわち、待つことは他の活動に比べて過剰に退屈だと評価されやすく、その傾向が、実際に待つことを避ける行動につながっていることがわかりました。

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(図2 待つだけ条件とニュース閲覧条件の動機づけ評価。灰色の点は各参加者の評定値。太線のバーは標準誤差。黒丸は平均値を示す)

本研究で得られた結果は、人の不正確な動機づけ予測が不必要に「自由に物思いに耽る」楽しさを阻害し、自由な思考がもたらすポジティブな作用(問題解決や創造的思考)から遠ざけている可能性を新たに示しました。

また、これまでの研究において、人が自由な思考を楽しめない可能性は明らかになっていましたが、人々が自由な思考を楽しめると期待しているかどうか、その期待が正確かは明らかになっていませんでした。この点を世界で初めて明らかにし、待つことの「楽しさ」だけでなく「やる気」についても人は過小評価してしまう可能性を示したことは、本研究の大きな意義であるといえます。

今回の研究で、人は「自由な思考時間」を過度に退屈であると評価するために、待ち時間を自由な思考ではなくソーシャルメディアや他の活動に費やしている可能性が示唆されました。

今後は、過小評価がどの程度持続するのか、感情予測のメカニズムでの説明は可能なのか、先行研究との手続きの違い(楽しいことを考えさせることとただ待つように求めること)の影響を明らかにし、やる気の過小評価の背景にあるメカニズムを明らかにしていこうと考えています。

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(写真1枚目:繁桝 博昭教授/2枚目:波多野 文客員研究員/3枚目:村山 航客員教授)

繁桝教授は、「本研究成果は、アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)からも、注目すべき研究として評価されプレスリリースをしていただきました。現代を生きる私たちは、時間をつぶす方法がありすぎて、待ち時間に頭の中を整理したり、じっくり考えるという貴重な機会を逃しているのではないかと感じています。私も待ち時間はついスマートフォンでニュースを確認したりしてしまいますが、これを機に能動的に考える機会をつくっていきたいと思いました。今後は、どうすればただ考えることもそれほど悪くないものだとあらかじめ感じることができるかについても明らかにしていきたいと思っています」と語りました。

【原論文情報】
Hatano, A., Ogulmus, C., Shigemasu, H., & Murayama, K. (2022). Thinking about thinking: People underestimate how enjoyable and engaging just waiting is.  
Journal of Experimental Psychology: General. Advance online publication.
https://doi.org/10.1037/xge0001255

【参考文献】
Murayama, K. (2022). A reward-learning framework of knowledge acquisition: An integrated account of curiosity, interest, and intrinsic-extrinsic rewards. Psychological Review. Advance online publication.
https://doi.org/10.1037/rev0000349

Murayama, K., Kitagami, S., Tanaka, A., & Raw, J. A. L. (2016). People's naiveté about how extrinsic rewards influence intrinsic motivation. Motivation Science, 2(3), 138-142.
https://doi.org/10.1037/mot0000040

Wilson, T. D., Reinhard, D. A., Westgate, E. C., Gilbert, D. T., Ellerbeck, N., Hahn, C., Brown, C. L., & Shaked, A. (2014). Just think: The challenges of the disengaged mind. Science, 345(6192), 75-77.
https://doi.org/10.1126/science.1250830

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