2023.5. 8学生生活 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

坂本ひかるさんらが低線量電子線回析条件における電子線の有機系結晶への影響を明らかにし、英国学術論文誌の表紙を飾りました

坂本 ひかるさん(大学院博士後期課程 基盤工学コース 2023年修了/指導教員:機能性ナノマテリアル研究室 大谷 政孝准教授)を筆頭著者とする研究論文が、Royal Society of Chemistry(イギリス王立化学会)のChemical Communicationsに掲載され、Front Coverとして採用されました。

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本論文では、「低線量電子線回折条件における多孔性結晶の結晶崩壊挙動の直接観察」を報告しました。
電子線回折を用いた有機系結晶材料の結晶構造解析は、標準的な手法である単結晶X線構造解析で測定が困難なサブマイクロスケールサイズの微結晶の新たな測定手法として、近年、飛躍的に利用が広まっています。しかしながら、金属や金属酸化物等の無機結晶の場合と比較して、有機系結晶に対する電子線照射の影響は極めて大きく、測定時における電子線損傷ダメージは避けられない課題でした。

坂本さんらの研究グループは、有機系結晶材料の構造解析に適用可能な低線量照射電子線回折条件において、電子線が有機系結晶に対してどのような経時的変化を与えるかを明らかにしました。様々な有機系結晶に対する電子線回折実験を網羅的に行う実験の中で、その部分構造として有機分子を含む多孔性結晶の一種である金属有機構造体 (Metal-Organic Framework: MOF)の場合では、その空間構造の違いにより崩壊速度には一定の傾向が見られることに気が付きました。一般に、結晶自身を構成する共有結合や配位結合、分子間相互作用等により、その結晶材料の構造的な安定性は左右されます。一方、今回の実験結果より、多孔性結晶の場合では結晶内の空間を埋める原子密度(非占有体積)の違いが結晶の崩壊速度を決定する一因となっていることを実験的に明らかにしました。

また、同種の結晶構造でも分子の一部分を占有体積の大きな原子へと置換することで、電子線照射による結晶崩壊を遅延できることを見いだしました。この発見は、今後さらに普及が進む電子線単結晶構造解析(microED法、Electron Crystallography)において避けられない課題である「結晶損傷過程」と「電子線耐性」に対するさらなる理解につながるものです。

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坂本さんは「博士後期課程での研究生活最後の目標であった論文採択が叶い大変光栄です。根気のいる実験でしたが、分析データが増えるごとに新しい現象に近づいているようでワクワクしました。大谷先生をはじめ、アドバイスを下さった先生方には感謝しきれません」と語りました。



論文タイトル:Direct observation of crystal degradation behaviour in porous crystals under low-dose electron diffraction conditions(低線量電子線回折条件における多孔性結晶の結晶崩壊挙動の直接観察)

論文著者 :坂本 ひかる(大学院博士後期課程 基盤工学コース 2023年修了) 
      理工学群 准教授 大谷 政孝

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