2023.12.22地域・一般 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

稲見 栄一准教授らが世界で初めて光で物質構造を原子レベルで制御する方法を発見

システム工学群の稲見 栄一准教授、金沢工業大学の西岡 圭太准教授、大阪公立大学の金崎 順一教授らの研究グループは、光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを世界で初めて原子スケールで観察することに成功しました。

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(光誘起転移の初期プロセス)

物質は、温度や圧力などの外部環境の変化に伴って、同じ化学組成を保ちながらも異なる構造や性質の状態(相)に変化します。この現象は「相転移」と呼ばれ、材料の熱処理や合金設計を始めとする今日の材料工学で広く利用されています。近年、特定の物質に光(可視光)を照射して相転移を起こす「光誘起相転移」の研究が盛んに行われていますが、相転移に伴う原子レベルでのミクロなメカニズムの解明には至っていませんでした。

そこで、稲見准教授らの研究グループは、走査型トンネル顕微鏡※1を活用して、炭素原子から成る黒鉛(グラファイト)が光照射によってダイヤファイト※2と呼ばれる秩序構造へ相転移する現象を観察しました。その結果、光を照射した黒鉛上では、始めにわずか2個の炭素原子から成る0.5ナノメートル※3程度の核が形成されること、さらに、その核が、周辺へ拡大しながらドメインを形成し、そのサイズが約5ナノメートルに達すると、構造が黒鉛からダイヤファイトへ大きく変化することを明らかにしました。

今後、光で特定の相転移を選択的かつ効率的に引き起こせるようなれば、微細加工技術や材料科学の分野での応用が期待できます。

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稲見准教授は「プローブ顕微鏡を使って、光誘起相転移の現象を原子レベルで観察することができ、満足しています。今後は、原子レベルで精密に制御することに挑戦し、光を使った材料開発を成功させたいです」と意気込みました。

【掲載論文】
題 名:Atomic-scale view of the photoinduced structural transition to form sp3-like bonded order phase in graphite(光誘起構造転移に伴うsp3様秩序相形成の原子スケール観察)

著 者:Eiichi Inami, Keita Nishioka, Jun'ichi Kanasaki

掲載誌:Scientific Reports

掲載日:2023年12月15日

DOI :10.1038/s41598-023-47389-x

【用語解説】
*1)走査型トンネル顕微鏡
極めて鋭い針を使って物質の表面をなぞるようにスキャンしながら観察する顕微鏡。針と表面の間に流れる微弱な電流を測定することで、表面の形状を原子レベルで観察できる。

*2)ダイヤファイト
炭素原子から構成されるダイヤモンド様構造。従来の材料プロセスでは形成されず、黒鉛に可視光を当てることによってのみ生じる構造として知られている。"ダイヤファイト"という名前は、この構造が、黒鉛(グラファイト)とダイヤモンドの中間的な性質を持つことに由来する。

*3)ナノメートル
長さの単位で、1ナノメートルは1メートルの10億分の1に相当する。このスケールは、原子や分子のサイズと同程度であり、ナノテクノロジーの分野で頻繁に使用される。

詳細はプレスリリースをご参照ください。

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