2024.2.21地域貢献 / 研究 / 研究者・企業

交通事故における大脳楔前部の関与を特定、朴 啓彰客員教授らの論文が「Scientific Reports」に掲載されました

本学 地域連携機構 地域交通医学・社会脳研究室のHandityo Aulia Putra研究員、朴 啓彰客員教授、弘前大学の大庭 輝准教授、岩手医科大学の山下 典生准教授らの論文「Adult attention‑deficit/hyperactivity disorder traits in healthy adults associated with brain volumetric data identify precuneus involvement in traffic crashes(ADHD(注意欠如・多動症)様行動がみられる健常者は、頭頂葉にある楔前部容積が小さいほど交通事故を起こしやすい)」が、2023年12月18日ネイチャースプリンガー発行の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

これは、「安全運転には頭頂葉の左楔前部が大きく関与している」という、本田技研工業株式会社の研究チームが磁気共鳴機能画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて報告した実験結果を、朴啓彰客員教授らが脳ドックでの大規模脳構造データで裏付けし、報告したものです。

ADHDは、最も頻繁に診断される発達障害の一分類であり、成人のADHD患者は交通事故を起こしやすい傾向にあることが既に知られています。事故を減らすためには、ドライバーのエラーを最⼩限に抑える必要がありますが、エラーの元となる不適切な情報処理(危険を認知、判断、予測、瞬時のアクセル・ブレーキ操作)に関係する脳の詳細な神経機構は未だ解明できておらず、また、運転中の脳活動の計測には技術的な課題がありました。

本研究では、大脳灰白質の脳部位容積と安全運転行動との複雑な関係を明らかにすることを目的とし、2,548名の脳ドックデータとADHDの特性(健常者でも何らかのADHD傾向があります)との交差点事故歴の関係をパス解析しました。その結果、視空間認知と周辺環境における知覚情報の統合に関連するとされる楔前部が交通事故に関与する重要な脳部位であることを証明しました。

図:修正版ADHD and precuneus in traffic crashes.jpg.pngADHD様行動は3つのカテゴリ(注意欠如・多動・多弁)に分類されますが、アンケート調査によるスコアと脳部位容積値が正の相関を示す領域は、左図のように赤で色付けされ、負の相関を持つ領域は青で色付けされています。
a)注意欠如の対象となる脳領域は①右直回、②右上前頭回内側、③左内側眼窩回、④左嗅内野、⑤左楔前部、⑥右前帯状回、および⑦左後帯状回。
b)多動の場合、示される脳領域は①右角回、②右嗅内野、③左内側眼窩回、④左舌回、⑤左楔前部、⑥左後島質、⑦左後帯状回、⑧左縁上回、⑨右横側頭回。
c)多弁の場合、対応する脳領域は、①左前眼窩回、②右中心後回内側、③右縁上回、④左舌回、⑤左楔前部が含まれています。注意欠如、多動、多弁の3つ全てで共通する領域は、左楔前部のみであることが分かりました。

今後の展開として、例えば、運転免許の更新でADHDに関するアンケート調査を行い、交通事故を起こすリスクの高い個人を特定できれば、安全運転指導を強化できる可能性があります。加えて、 脳ドックでもできる簡単なMRI検査を導入すれば、さらなる交通事故防止や交通安全の向上が期待できます。

朴客員教授は、「fMRIを用いた脳機能研究では、座位や狭い空間という制約もあり、限られたタスクおよび小規模なサンプル数という欠点がありました。今回、我々が示した通り、脳ドックで得られる大規模脳構造データを用いると個人差にも対応した結果が得られます。今後は、fMRIによる脳機能データと脳ドックによる脳構造データとのコラボレ-ションが進むのではないかと見込んでいます。脳ドックは日本独自の脳予防医学システムです。他国の追随を許さない社会脳科学分野の確立・発展に貢献していきます」と意気込みを語りました。

論文はこちらからご覧いただけます。

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