2024.4.24学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

多孔性材料の二酸化炭素吸着プロセスを分析する新手法を開発、英国学術論文誌の表紙に採用されました

理工学群の大谷 政孝教授、甘中 詩乃さん(修士課程 化学コース2年・兵庫県立西脇高等学校出身)らが、多孔性結晶(金属有機構造体)における二酸化炭素の吸着プロセスを詳細に分析する新たな実験手法を提案・実証した研究論文が、Royal Society of Chemistry(イギリス王立化学会)のChemical Communicationsに掲載され、Front Coverに採用されました。

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CO₂を回収・分離し、そして化石燃料に変わる資源として再利用する新たな科学技術の開発は、持続可能な社会(炭素循環社会(*1)の実現に向けた重要課題の一つです。
特に、大気あるいは排ガス中に含まれるCO₂を吸着剤により直接回収する技術は、「Direct Air Capture(DAC)」(*2)と呼ばれ、その実現が期待されています。DACの実現には、窒素(N₂)や酸素(O₂)など様々な気体成分を含む複雑な混合気体からCO₂のみを選択的に吸着することが可能な、高性能な固体吸着剤が求められています。その有力な候補の一つが、「金属有機構造体(MOF)」(*3)と呼ばれる多孔性結晶材料です。

大谷教授らは、MOFのうち、CO₂を選択的に吸着する「ZIF-7」(*4)に着目し、ZIF-7におけるCO₂吸着プロセスを示差走査熱量測定装置(Differential Scanning Calorimetry:DSC)(*5)により「熱量変化」として追跡・分析することが可能であることを示しました。

この新たな分析手法は、様々なガス吸着材料にも適用可能な極めて汎用性の高い手法です。今後のさらなる検証により、選択的なCO₂吸着機能の解明や、さらなる高機能材料の開発の一助となることが期待されます。

詳細はプレスリリースをご覧ください。

コメント

★1E7A2491.jpg「学士4年次から取り組んできた研究をこのような形で発表することができ、大変嬉しく思います。熱心に研究をサポートしてくださった大谷先生をはじめ、研究室のメンバー、卒業された先輩方に心より感謝申し上げます。今後は、さらなる選択的なCO₂吸着機能の解明や高機能化をめざし、最後の一年も感謝を忘れず、精進していきます」(甘中 詩乃さん)

「研究室一期生の尾崎さんが発見した現象を、甘中さんが一つ一つ丁寧に検証し、論文としてまとめてくれました。研究室一丸となって取り組んでいるCO₂吸着材料の開発において、今後の方向性を示す重要な論文と考えています。現在、実証した分析手法を用いて、さらなる実験を進めているところです。続編にも期待してください」(大谷教授)

掲載論文

題 名:Thermodynamic analysis of gate-opening carbon dioxide adsorption behavior of metal-organic frameworks(金属有機構造体のゲートオープン型二酸化炭素吸着挙動の熱力学的解析)
著 者:修士課程 化学コース2年 甘中 詩乃
    修士課程 化学コース2023年度修了 大宮 歩実
    修士課程 化学コース2019年度修了 尾崎 千穂
    大谷 政孝 教授
掲載誌:Chemical Communications
掲載日:2024年3月18日
D O I :https://doi.org/10.1039/D3CC05700C
※本論文はオープンアクセスです。

表紙ページはこちらから

用語解説

*1)炭素循環社会
 化石資源の消費によるCO₂の排出を抑えるだけでなく、植物のCO₂吸収・固定に依存せず新たな科学技術によってCO₂を資源として再利用することで、CO₂排出量と吸収・再利用のバランスが保たれた資源循環型社会の実現を目指すもの。

*2)Direct Air Capture(DAC)
 大気あるいは排出ガス中から直接、CO₂を分離・回収する技術のこと。固体吸着剤による吸着以外にも、アミン系化合物などを用いた液体吸収法などがある。

*3)金属有機構造体
 金属イオンと有機分子が交互に規則正しく結合することで形成される結晶性材料のこと。金属イオンと有機分子の組み合わせにより、特定のガスに対する高い吸着能力など、様々な特性を示すことが知られている。これまでに約10万種類以上が報告されている。

*4)ZIF-7(Zeolitic Imidazolate Framework-7の略称)
 金属有機構造体の一種。ZIFはZeolitic Imidazolate Frameworkの頭文字をとったもの。無機固体材料の一つである「ゼオライト」と類似した骨格構造を有することが知られている。

*5)示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)
 測定試料がある温度で示す構造変化や反応を、発熱または吸熱変化として検出する分析手法の一つ。

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