2024.11.20学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

藤田 武志教授らの研究グループが逆解析を駆使した多元素ナノポーラス触媒の開発に成功

理工学群の藤田 武志教授は、同学群のBolar Saikat助教、筑波大学数理物質系の伊藤 良一准教授とともに、耐酸性多元素ナノポーラス触媒の開発に成功しました。

多元素からなるナノ合金や酸化物触媒は、高い活性と優れた耐久性という触媒機能を持ち、特に酸溶液における固体高分子形(PEM)水電解触媒として実用化が期待されています。多元素触媒は、貴金属の含有量を減らしコストを抑えるだけでなく、触媒の耐久性を大幅に向上させます。さらに、ナノポーラス構造を導入することで比表面積を増加させ、触媒活性を向上させることが報告されていますが、強酸環境下では触媒の溶解や表面構造の変化が起こり、失活してしまうという問題がありました。また、元素の組み合わせが無数に存在するため、最適な元素の組み合わせを選択するのは困難でした。

最適な元素の組み合わせを選択するにあたって、藤田教授らが着目したのは、「逆解析」という分析手法です。この手法は、特定の入力に対する出力や応答を観察することで、システムの未知のパラメータや特性を決定するというもので、従来の直接解析が既知のパラメータから結果を予測するのに対し、観察された結果から基礎的なパラメータや特性を推測します。

本研究では、23元素を含む超多元素ナノポーラス合金(HEA23)注)を強酸溶液中に長時間入れて、溶けずに残った材料に含まれている元素を分析するという逆解析を通じて、Al・Au・Ir・Nb・Pt・Rh・Ru・Ta(HEA8)の8成分が生き残って耐酸性ナノポーラス触媒を構成していることを見出しました。このHEA8は、酸性媒体における水素発生反応および酸素発生反応で高い触媒活性と電気化学的安定性を示し、市販の白金や酸化イリジウム触媒よりも優れていることが明らかとなりました。

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図1 8元素ナノポーラス触媒のX線マッピング像
   電子顕微鏡のX線分析機能を使って、各元素の分布を調べた結果。 均一に元素が分布していることが確認できる。

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図2 開発材(HEA8両極)および市販の白金//酸化イリジウムの2 Vの印加電圧で得られたクロノアンペロメトリ曲線 
30時間後、白金//酸化イリジウムは使用により70%に減少しているが、開発材(HEA8)は91%を維持している。

今回見出された耐酸性多元素ナノポーラス触媒(HEA8)は脱合金化法で作られており、アルミ前駆合金(Al93Au1Ir1Nb1Pt1Rh1Ru1Ta1 at.%)をアルカリ溶液(0.5M水酸化ナトリウム溶液)に浸漬するのみで創成可能なため、容易に大量生産が可能です。今後、この逆解析をさらに発展させることで、様々な使用環境に耐えられる触媒開発が期待されます。

この成果は、2024年11月15日、Journal of Materials Chemistry Aに掲載されました。

  詳細はプレスリリースをご覧ください。

【用語解説】
注)超多元素ナノポーラス合金
 通常の合金とは異なり、10種類以上の異なる元素を均一に含む「高エントロピー合金(High-Entropy Alloy, HEA)」の一種であり、さらにナノメートルスケールの細孔(ポーラス)構造を有する材料。

掲載論文

題 名: Inverse analysis-guided development of acid-tolerant nanoporous high-entropy alloy catalysts for enhanced water-splitting performance(逆解析を活用した耐酸性ナノポーラス多元素触媒の開発と水分解性能の向上)
著 者: Saikat Bolar, Chunyu Yuan, Samuel Jeong, Yoshikazu Ito and Takeshi Fujita
掲載誌: Journal of Materials Chemistry A
掲載日: 2024年11月15日
D O I : https://doi.org/10.1039/D4TA05756B

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