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JAXAと協力して航空機のさらなる安全性と燃費向上をめざす
最先端のフィールドで培った航空技術を次の世代へ
JAXAの前進の一つである航空宇宙技術研究所、そしてJAXAで、約30年にわたり日本の航空技術の発展に向けた最先端の研究開発を行ってきた野﨑教授。80年代後半、スーパーコンピュータを使ってジェットエンジン内の空気の流れを解析するシミュレーション技術の確立に尽力するなど、航空技術の発展に大きく貢献してきた。
「当時エンジン分野は実験による解析が主流で、"計算なんて信用できない"と言って誰も相手にしてくれなかったんです。でも実験結果とよく合うデータを発表していくうちに信頼を獲得するようになっていきました。実際に実験をしないとわからなかったことが、シミュレーションによってかなり正確に予想できるようになりました」
そのうちに国内のジェットエンジンメーカーがこの技術に興味を持ち、共同研究を積極的に行うようになった。またシミュレーション技術の活用はメーカーの製品開発にも役立ち、日本の技術力の向上にもつながった。
航空輸送量の増加により、騒音や排気ガスなどの環境負荷の増大が懸念され、環境に配慮した航空機の開発がより一層求められている。野﨑教授はこれまでの研究の中で、ジェットエンジン内の空気が効率よく流れるような道筋をつくり、燃費の向上に寄与してきた。近年では国産ジェット旅客機なども登場し、国内メーカーも勢いを強めているが、JAXAが行ってきた地道な基礎研究の成果が技術開発のベースになっていることは言うまでもない。
「日本の技術力が世界に認められるようになり、国際競争力の向上に貢献できたという思いはあります。日本のエンジンメーカーは今後さらに国際共同開発におけるシェアを伸ばそうと、新たな航空エンジン開発を進めています」
そして今、野﨑教授も安全かつ環境に配慮した次世代の航空エンジンの研究開発に力を入れている。さらには、航空分野で活躍できる優秀な人材を育てるための近道として、「JAXAで蓄積してきた経験を日本の未来を担う学生たちの教育に活かしていきたい」と古巣のJAXAに学生を研修生として派遣。送り込まれた学生たちは、JAXAの研究員の方々とともに最先端研究の一翼を担っている。
未解明なジェットエンジンの着氷現象を明らかに
JAXAと協力して行っている研究の一つが、ジェットエンジンにおける着氷現象の解明だ。着氷とは過冷却滴などが物体と衝突し、その表面に氷層を形成する現象のこと。航空機の機体だけでなく、ジェットエンジンでも燃焼器より前方にある圧縮機・ファンなどで着氷が起こる。エンジンに着氷すると流路が狭まり、空力性能が低下するだけでなく、氷の離脱現象によってエンジンコアや機体の損傷などを引き起こし、エンジン停止も起こり得る。着氷現象には未解明の点が多く、定量的なデータが少ないことから、まずは着氷データの取得・蓄積を行うことで現象の解明をめざしてきた。
実験では冷蔵庫内に設置したノズルから模型に液滴を噴霧、着氷させ、レーザー変位計などを用いた非接触な手法により着氷量を定量的に計測。液滴のサイズ、流量、模型の形状といった試験条件による着氷量や着氷形状の違いを確認した。
「定規で表層の厚みを測定するといった従来の接触計測では、形状が崩れる、時間がかかるといった数々の問題がありました。この実験を通して非接触な計測システムを確立し、そうした問題を解決することも一つの目標です」
非接触な着氷量計測システムを構築し、計測時間を短縮させることで、実際の着氷により近い状態で計測することや、複雑な形状の回転翼の着氷量計測も可能になる。
「これまでの実験と分析の結果、ジェットエンジンの先頭部分のファンの回転数を変えることで、氷の付着の仕方や付着する位置が変化する様子がわかってきました。今後はより航空機エンジンに近い形状を持つダクテッドファンを用いた着氷実験を行い、測定の精度を高めていきます」
「ジェットエンジンへの着氷のメカニズムを明らかにすることで、簡便で効率的な防除氷技術の開発や、着氷を減少させる高性能な圧縮機・ファンの設計が可能になります。その結果、燃費や安全性が向上し、多くの人にとって航空機がさらに身近な乗り物に近づくことでしょう」
高効率な回転翼ドローン用のローターブレードの開発へ
JAXAと行っている研究のもう一つが、効率の良い回転翼ドローン用のロータブレードの開発だ。主に観測や撮影、輸送の分野で普及してきた回転翼ドローンだが、常時エネルギーを消費してモーターを回転させる必要があるため、長時間の駆動が難しく、一度に飛行可能な時間と距離が短いことが難点とされている。その上、ドローン向けの効率の良いロータブレードの設計法はいまだ確立されておらず、目下の課題となっている。
「ドローンは空力的な研究がまだほとんどされていないのですが、ドローンの羽を設計するには空気力学の知見が必須です。中でも回転翼ドローンは、回転する羽の先端から渦を放出しながら飛んでいますが、空中に停止している時は、前進するプロペラ機のように渦が後ろに流れていかず、下にどんどん溜まっていってしまいます。ドローンのロータブレードにはそれを考慮した設計が必要です」
そこで、高効率なロータの設計を行うために必要な翼端渦位置の推定式を求め、設計に生かそうとしている。この研究が進めば、長距離・高速飛行が可能な回転翼ドローンが実現し、さらに多方面での活用が進んでいきそうだ。
安全性と信頼性が不可欠な航空分野。研究成果が実用化に結びつくまでには非常に長い歳月がかかる。野﨑教授は学生たちとともに地道な基礎研究を行いながら、日本の航空分野で活躍できる人材を育てていく。
掲載日:2017年7月24日
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