しなやかな人の知能をモデルに人間に近いシステムを実現

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星野 孝総HOSHINO Yukinobu

専門分野

知能システム、機械学習、感性工学、ヒューマンインタフェース

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人工知能とFPGAを組み合わせ、さらなる小型化、高速化へ

近年、急速な進歩を遂げ、あらゆる分野で活用事例が生まれている人工知能。星野准教授はより人間に近い、しなやかにふるまうコンピュータシステムについて研究を行ってきた。

「人間が持っている能力をコンピュータ上に再現し、それをアルゴリズムとして、さまざまな制御に利用したり、人間を支援するツールに利用するような研究を行っています。応用例としては、頭で考えただけで動くロボットや、人間が運転しているように自動で走る車、人間の感性や感覚に応じた親しみやすいインターフェースなどさまざま。しなやかな人の知能をモデルに、新たな脳を創り、1チップのコンパクトなシステムにすることをめざしています」

時代とともにコンピュータの性能が進化し、パソコンやスマートフォンに欠かせない半導体のメモリの大容量化、高速化が進んできた。その昔、人工知能では単純な処理しかできなかったが、今では情報量が多い画像の処理など、さまざまなことが可能になった。
そんな中、人工知能を使ったシステムはリアルタイム性が求められ、最近ではCPUよりも高速処理が可能なFPGAが注目を集めている。FPGAはプログラミング可能な半導体で、複雑な処理をすべて1チップに組み込めるという利点もある。星野准教授は人工知能とFPGAを組み合わせた研究を行う、国内で数少ない研究者の一人だ。

「高速化と小型化が求められる人工知能分野で、FPGAの活用は今や世界的な潮流になっています。国内で先駆けて研究できていることは大きな強みだと思っています」

人工知能による自動追跡システムで免疫細胞「マクロファージ」を効率的に解析

そして今、星野准教授が高知大学医学部と共同で進めているのが、特定の組織内に分布する免疫細胞「マクロファージ」の分析を支援するツールの開発だ。体内の異物を取り込み、分解・吸収するなど人間の健康にとって不可欠なマクロファージ。医療分野では、人間の健康状態によってマクロファージの働きにどれだけの違いが生まれるのかについて活発な研究が行われている。

「マクロファージの動きと免疫力には関係性があると言われています。そこで人工知能の力を使って、動きの違いを解析し、治療の支援につなげようと研究を進めてきました」

しかし、マクロファージは絶えず変形する上、他の細胞に重なるため、通常の画像処理ではその動きを追跡することは難しい。実際のところ、その解析には、人間の細胞を撮影した動画から1フレームごとに静止画を切り出し、マクロファージの動作を一枚ずつ確認していくという多大な手間と時間を要する作業が必要になる。
そこで人工知能を使い、一連の解析作業を自動化する画期的なツールを開発した。このシステムを使えば、マクロファージの形に合わせて、自動的に変形しながら追跡することが可能だ。「人間の手作業でしかできなかったことを人工知能によって実現しました。これによって、何ヶ月もかかっていたことがたった5分で完了します」と星野准教授は話す。
今後はこのツールを実際に医師に使用してもらい、フィードバックを得ることで、追跡性能の向上をめざしていく。

物体検出技術で中山間地域の課題を解決

画像検索、顔認識、視覚支援など多くのアプリケーションに用いられる物体検出。近年個人で保有する画像データの増加やコンピュータの処理速度の向上に伴い、物体検出の研究が盛んに行われているが、星野准教授はこの技術の高度化に向けた研究にも取り組んでいる。

「画像の量が膨大になってくると、人のエリアだけを抜き出したり、粗い画像を認識したり、男女を分類したり、物体検出にもさまざまなパターンが生まれてきます。あらゆるパターンを網羅するため、FPGAの技術を使い、巨大化するデータを人工知能で識別する仕組みをつくろうと試行錯誤しているところです」

これによって、変形したパターンが膨大な「手書き文字」の識別に成功。今後は人、犬、飛行機などの対象物を分類する精度を向上しながら、FPGAと組み合わせてハードウェア化し、高速化や大容量化を実現しようとしている。

「この研究が進めば、網膜や顔、毛細血管などで認証ができるようになるでしょう。自分のからだを登録しておけば誰がどこにいるかがわかるため、IDカードがいらなくなるかもしれませんね。それほど遠くない未来に実現しそうな気がしています」

さらには、中山間地域ならではの課題にも、人工知能の物体検出技術を生かすことができるという。近年、山から降りてくる猿による被害が増えてきた。この問題を解決しようと、猿を大きな檻の中に誘い込み、捕らえる仕組みを構築している。この仕組みの一体どこに人工知能を使っているのだろうか。

「檻の中で猿を感知すると管理者に連絡が入り、遠隔で扉を閉めるという仕組みです。入ってきた動物が猿かどうかを見極めるところに、人工知能の技術が活用されています」

人間の細胞から地域課題まで、応用の範囲は大きく広がっている。
そんな人工知能で究極の進化と言われているのが、「Brain-Computer Interface」という分野だ。計測された脳活動から被験者の意思を検出することで外部機器を制御するシステムで、脊髄損傷などによる重篤な四肢麻痺患者といった残存機能が限られた人に提供する代替コミュニケーション手段として注目を集めている。
先進的に研究が行われているアメリカでは、手術をして電極を脳に埋め込む方法が主流だがリスクは高い。そこで星野准教授は手術なしに、思考が動いた時の信号を脳の表面から取り出し、それによってコミュニケーションができるような仕組みを開発中だ。これまでの研究を通して、人間が何かを考えた時に脳で発生する信号を前頭葉から取り出すことに成功。新たな一歩を踏み出したところだ。

「人工知能の分野がさらに進展し、人間と同等以上の知能が発揮できるようになれば、人間をサポートしてくれる機械やロボットが当たり前になるでしょう。さらには、ロボットが人間のパートナーのような存在となるかもしれません。こうした研究を通して、そんな夢のような未来をしっかりと見据えています」

掲載日:2017年6月29日

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