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持続可能性を担保できる社会をめざし、新たな制度や仕組みを提案
国や社会はいかに持続性と効率性・発展を両立し得るのか
過去50年の間に資本主義と民主主義が世界の主流となり、多くの国々に経済的発展と多様な価値観をもたらした。一方、気候変動、貧困格差の拡大、政府の債務超過といった国や社会の持続性を脅かす深刻な問題が生じている。「効率性や発展を追い求めた犠牲として持続性が損なわれているのではないかという危惧が、今世界中に広がっている」と指摘する小谷教授。「国や社会はいかに持続可能性と効率性・発展を両立し得るのか」を大きなテーマに据え、経済学を中心に、経営学、心理学、社会科学の視点を取り入れながら研究を行っている。
「どのような新しい制度・仕組み・環境によって、国や社会が持続可能性を高めるような行動を起こすようになるのか。この問いが研究の核心です」
研究対象の一つが、市場や取引のあり方だ。かつては売り手と買い手が顔を付き合わせて交渉する相対取引のみが行われていたが、現在はインターネットオークションやオンライン取引の発展によって、相手の顔を知らない状況での取引、さらには転売や裁定取引が増えている。転売などが大量に起こる状況では、相対取引で存在していた相手との信頼や責任はもちろん、取引に伴う資源や時間の消費によって社会の持続性が損なわれるのではないか。そう考えた小谷教授は転売や利鞘のための取引が可能になることで起こる弊害を追究し、社会の持続性と効率性・発展を両立できる市場取引のあり方に、実験経済学的な手法でアプローチしている。「どういう市場の取引形態が社会や人々にとってよりよいのかを考え、新たな仕組みを提案していきたい」と意欲を見せる。
都市部と農村部の違いから、持続性が損なわれた要因を探る
そもそも現在のような持続性が損なわれた状況に至った要因はどこにあるのだろうか。小谷教授は都市部と農村部の違いから、人間社会がどう進化してきたのかを捉えることでそのヒントを得ようと、日本、中国、バングラデシュ、インドネシア、ネパールで実験を重ねてきた。その結果、都市出身者に比べて農村出身者の方が自分より他人を思いやる「利他性」を持つ人の割合が高いことを見出した。
さらに、都市部と農村部で利他性を持つ人の割合が異なる要因を調べるため、被験者600人の唾液から採取したDNAの遺伝子配列から、利他性が先天的、後天的、どちらによるものかを明らかにしようとしている。そこには、利他性は持続可能な社会をつくるために重要な要素だという考えがある。
「もし利他性が後天的なものであれば、その獲得は『生まれ育った環境』で決まるので、特に都市部の人々に利他性が備わるような環境づくりを行うことが重要だと言えるのです」
将来的に地球の人口の約7割がアジアとアフリカの都市部に集中すると言われる中、小谷教授には「都市部の人々がどんな社会をつくっていくのかを真剣に考えない限り、持続可能性が担保できない」という問題意識がある。だからこそ、都市部の人々が持続性への意識を高めるような社会の制度や仕組みの提案に力を注いでいるのだ。
「将来世代の視点」を持つことが持続性への意識を高める鍵
フューチャー・デザイン研究所のメンバーとして、小谷教授が推進している研究において提案した新しい制度や仕組みの一つが、「個人が将来世代の視点を獲得したうえで、現世代の事象を判断する」ことだ。実験の結果、将来世代の視点を持ったグループは、持たないグループに比べてより持続可能な選択をすることを実証した。「将来世代を考慮することは将来世代に責任を負うことでもある。これを認識させるような教育の仕組みを導入すれば、一定の効果はあるでしょう」と語る。
また、現世代の行動が将来世代に大きく影響を与えてしまう場合、「説明責任」を課すことを制度化することで、人の行動や考え方が大きく変わることも、実験から確認した。
「これまでの間接民主制のうえに新たな制度や仕組みを加え、さらに教育も変化させることで、近視眼的な視野を将来世代を見通した長期的な視野へと変容させることが大切です。多くの人が過去・現在・将来という縦軸を意識して行動するようになれば、社会はよりよいものになると確信しています」
掲載日:2020年12月23日
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