2021.5.26学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

中分 遥助教らの研究グループが、乳児が「超自然的能力と社会的優位性とを結びつけていること」を解明

本学経済・マネジメント学群の中分 遥助教、大阪大学の孟 憲巍助教、九州大学の橋彌 和秀教授、オックスフォード大学のHarvey Whitehouse(ハーヴェイ・ ホワイトハウス)教授らの研究グループは、生後12-16カ月の乳児が「反直観的※1で超自然的な能力を示す者は社会的優位性※2が高い」と期待することを、視線を用いた行動実験によって示し、こうした傾向が発達初期から備わっていることを明らかにしました。
このような「判断バイアス」をヒトが発達の初期から備えていることは、人類史上多くの宗教的集団において超自然的な力を持つとされる存在が権威を持ってきたことや、現代社会においてもこの結び付きが根強く見られることの人間の心理的基盤を理解するうえで役立つことが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、5月25日に公開されました。

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研究の背景集団において「超自然的な力を持つ」とみなされる者が宗教的な権威を得る傾向は、人類の社会において広く指摘され、人類学・社会学・宗教学等様々な分野で議論されてきました。しかし、こういった傾向をもたらす個々人の心理的基盤がどのようなもので、それがいかにして成立するかという発達的な起源に関しては、実証的な検討が十分にはなされていませんでした。

中分助教らの研究グループは「九州大学赤ちゃん研究員」に登録していただいている生後12-16カ月の乳児を対象に、提示した画面に対する注視パターンを計測し、期待違反法※3と呼ばれる手法で研究をおこないました。その結果、画面に現れるキャラクターの超自然的な力と社会的優位性に関連があることを見出しました(下図参照)。具体的には「超自然的」能力(空中浮遊・瞬間移動)を持つ/持たないキャラクターをそれぞれ繰り返し見せたうえで、両者同士が競合し、どちらか一方が資源を勝ち取る結末をモニター上に提示しました。その結果、乳児は「超自然的」な能力を持つキャラクターが勝負に「負ける」結末を(その逆と比べて)より長く注視することがあきらかになったのです。このことは、乳児が「超自然的な能力を持つキャラクターが勝負に勝つ」ことを期待し、その期待が裏切られた結果であると解釈することができます。
発達心理学における従来の研究からは、空中浮遊する物体・瞬間移動するような物体の映像に対して乳児が「驚き」(より長く注視する)を示すことが分かっており、これは乳児がある種の「物理法則」を理解していることを反映したものと解釈されてきました。今回の研究では、それらの事象が「超自然的・反直観的」な側面をもつことに着目し、その側面をキャラクターと結びつけて社会的「競合」という文脈に置くことで、超自然的な能力と社会的優位性を結びつけるような判断バイアスが乳児期に遡りうるものであることを初めて示したものと言えます。

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※1 反直観的
例えば、手品で用いられるような、支えも無く物体が浮遊する、瞬間移動するといった物理的直観に違反する性質を指します。これまで乳児は、こうした物理的直観に従うものと、直観に違反するものを区別し、後者に対してより「驚き」を示すことが知られていました。宗教を認知科学的に研究するアプローチでは、こうした反直観的ないしは超自然的な現象を信じることが、世界の宗教に共通するパターンであることが議論されてきました。

※2 社会的優位性
社会的な上下関係を示します。こうした社会的関係を示す状況の一つが、優先的に資源を獲得するような状況です。これまで、乳児研究(および動物研究)では、あるキャラクターAが別のキャラクターBよりも優先的に資源を獲得すると期待するとき、乳児が「AがBよりも社会的優位」と理解していると推測していました。

※3 期待違反法
ヒトを含め多くの動物は、予測と反する事象に遭った際は驚いてその事象を長く見ます(見飽きるまでの時間が長い)。この現象を利用した期待違反法は、乳児が事象をどのくらい注視するかを調べることで、乳児がどのような予測(期待、認識)を持っていたか検証する実験法です。本研究では、乳児が「反直観的な力を持つ者は社会的に優位である」という期待を持つと仮説を立て、「反直観的な力を持つ者が資源を勝ち取る結末と比べ、負ける結末を見た際に乳児が(驚いて)その結末をより長く見る」とのロジックに基づいて、乳児の注視行動を検討することで、反直観的な能力と優位性関係の結びつきを検証しました。

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