2021.8.23学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

Cai Zexing助教、藤田 武志教授らの研究グループが14元素を均一に含む超多元触媒の開発に成功、万能触媒の実現に期待

環境理工学群のCai Zexing助教藤田 武志教授、東京工業大学 物質理工学院 材料系の宮内 雅浩教授、物質・材料研究機構の阿部 英樹主席研究員らの共同研究グループは、触媒として使用される14元素※1を原子レベルで均一に混ぜ合わせた「ナノポーラス超多元触媒」※2の開発に成功しました。

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図1 ナノポーラス超多元触媒の模式図

ナノポーラス超多元触媒の作製方法は簡便であり、合金から特定の元素を選択的に腐食させて、溶出させる脱合金化※3という方法で達成しました。具体的には、14元素を含んだアルミ合金を作製し、アルカリ溶液中でアルミを優先的に溶かすだけでナノポーラス超多元触媒を作製することができます。このコロンブスの卵のような簡便な方法により、孔のサイズが約5ナノメートルの比表面積(物体の単位質量あたりの表面積)の大きいナノポーラス構造ができると同時に、アルカリ溶液に溶けないアルミ以外の元素が集まって凝集し、原子レベルで14元素が均一に分布した固溶体合金※4になることが分かりました。また、ナノポーラス超多元触媒は、多元素重畳効果(カクテル効果)※5によって水の電気分解用電極材として優れた特性を持つことが分かりました。

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図2 ナノポーラス超多元触媒の作製方法

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図3 14元素ナノポーラス超多元触媒のX線マッピング像

ナノポーラス超多元触媒は、多様な元素で構成されていることから、今後、その多能性を生かした万能触媒として活用される可能性があります。また、高難度な触媒反応においての活用も期待されます。しかし、元素が多いのでそれぞれの元素の役割について未解明なところが多く、今の理論体系だけでは予測することが困難です。マテリアル・インフォマティクス※6のような情報科学を活用して研究を進め、反応ごとに最適な元素を選択する、といった元素のオーダーメイド化が必要になってきます。

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Cai助教と藤田教授は「普段は水と油のように混ざらない元素が均一に混じった非常に面白い新物質ができました。様々な応用展開が期待されます。新しく導入された電子顕微鏡『NEO ARM』の高い分析能力も活用することができました」と語りました。

本研究成果は、2021年8月20日(英国時間)に国際科学誌「Chemical Science」のオンライン版に公開されました。

プレスリリースはこちらから

本論文はオープンアクセスとなっており、こちらから確認できます

【論文情報】
掲載誌:Chemical Science(オンライン)(英国王立化学会)
論文タイトル:"Nanoporous ultra-high-entropy alloys containing fourteen elements for water splitting electrocatalysis"
著者:Ze-Xing Cai, Hiromi Goou, Yoshikazu Ito, Tomoharu Tokunaga, Masahiro Miyauchi, Hideki Abe, Takeshi Fujita
DOI:10.1039/d1sc01981c

※1 14元素
アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)

※2 ナノポーラス超多元触媒
ナノサイズの細孔がランダムにつながったスポンジ構造体(ナノサイズの細孔を持つ多孔質構造体)で、10以上の元素が均一に分布している触媒。

※3 脱合金化
合金から特定の元素を選択的に腐食させて、溶出させる方法。選択腐食ともいう。

※4 固溶体合金
2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものをいう。

※5 多元素重畳効果(カクテル効果)
多様な構成原子間の非線形相互作用に起因する特性発現。従来の合金触媒にはない特異で優れた触媒特性を示すことが期待できる。

※6 マテリアル・インフォマティクス
材料科学と情報科学を組み合わせて種々の物性予測を可能にすることで、新材料開発へつなげていくフレームワーク。

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