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古田 守教授らの研究グループが酸化物半導体薄膜トランジスタの飛躍的性能向上に成功、次世代ディスプレイの高性能化・低電力化に期待

環境理工学群の古田 守教授、片岡 大樹(大学院修士課程 マテリアル工学コース 2年)は、島根大学総合理工学部の曲 勇作助教、葉 文昌准教授らと共同で、低温(~300℃)で固相結晶化した水素化多結晶酸化インジウム(In2O3:H)薄膜の金属から半導体への転移に成功し、酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)※1の性能を飛躍的に向上させた電界効果移動度139.2 cm2V-1s-1を実証しました。
本研究成果は、 2022年2月28日にNature Researchが発行する英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

代表的な酸化物半導体である非晶質In-Ga-Zn-O(IGZO)※2は、10 cm2V-1s-1を超える電界効果移動度、極めて低いリーク電流、優れた大面積均一性等により、次世代ディスプレイや集積回路用途で活発な研究がなされ、実用化が始まりつつあります。今後の酸化物半導体の用途拡大には更なる高性能(高移動度)化が強く求められており、酸化インジウム(単結晶で~160 cm2V-1s-1)はその候補材料として注目されています。酸化インジウムは太陽電池用の窓層(透明導電膜)としての研究が活発ですが、電子密度が大きいため金属的伝導を示し、半導体としての用途は限定されていました。

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(図1 In2O3, In2O3:H薄膜の結晶性評価)

本研究では、水素化酸化インジウム(In2O3:H)薄膜の水素量と固相結晶化過程の精密制御により、比較的低温度(300℃)の結晶化にて格子像が確認できる極めて優れた多結晶薄膜の実現、電子密度を金属的伝導領域から半導体伝導領域に転移させる金属-半導体転移の実現、により高移動度酸化物半導体デバイス応用の可能性を拓きました(図1、2)。

本研究で実現した薄膜トランジスタの電界効果移動度(139.2 cm2V-1s-1)はこれまでの非晶質IGZOの10倍以上で、現在実用化されている多結晶シリコン(~100 cm2V-1s-1)※3をも凌駕するものです(図3)。

図2.png 図3.png

(図2 In2O3:H TFT半導体領域の断面TEM像/図3 In2O3:H TFTの写真と伝達特性)

今回、比較的低温度(300℃)の結晶化にて格子像が確認できる極めて優れた結晶性を実現しており、次世代ディスプレイや半導体メモリーの高性能・低電力化に加え、透明フレキシブルデバイス※4などへの発展が期待できる技術です。

古田教授は「酸化物半導体トランジスタは集積回路(IC)やディスプレイの高性能・低消費電力化のキーデバイスとして注目されており、今回、その性能を世界最高レベルに引き上げることができました。今後はさらなる性能向上や実用化に向けた課題解決に取り組むと同時に、新しいデバイスの実現に貢献していきたいと考えています」と語りました。

古田 守教授の最先端研究「酸化物半導体で実現するフレキシブルな透明エレクトロニクス」はこちらから

※1 薄膜トランジスタ
携帯電話やパソコン・テレビ等、全ての情報表示ディスプレイの画像表示において、電気の流れを制御するキーデバイスであり、金属/絶縁体/半導体を積層した電界効果トランジスタの一種である。

※2 非晶質In-Ga-Zn-O
インジウム(In), ガリウム(Ga), 亜鉛(Zn), 酸素(O)から構成され、原子配列に長距離秩序がない酸化物半導体材料。

※3 多結晶シリコン
微小な単結晶シリコンの結晶粒が多数集合したもので、現在のスマートフォンのディスプレイ駆動素材として実用化され、主流となっている。

※4 フレキシブルデバイス
薄くて軽く曲げたり巻いたりできるデバイス。

【掲載論文】
題 名:High-mobility hydrogenated polycrystalline In2O3 (In2O3:H) thin-film transistors.
(多結晶水素化酸化インジウムによる高移動度薄膜トランジスタ)
著者名:Y. Magari, T. Kataoka, Y. Yeh, and M. Furuta
掲載誌:Nature Communications
掲載日:2022年2月28日
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-022-28480-9

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