2023.9.26研究 / 研究者・企業

山本 哲也教授らの研究グループが室温で厚さ2ナノメートルのアモルファス金属酸化物薄膜の生成に成功

山本 哲也教授(総合研究所 マテリアルズデザインセンター)、住友重機械工業株式会社、株式会社リガクの研究グループは、室温で厚さ2ナノメートルのアモルファス金属酸化物薄膜を生成することに成功しました。

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金属薄膜や半導体薄膜を対象とする材料研究では、伝導性を担う自由電子(キャリア)の動き(輸送現象)を決める支配因子の解明が重要な課題となっています。

同研究グループは、2017年にキャリアが運動する次元も支配因子に関わるという理論を作業仮説として提案しました。その後、表面が活性な2.5次元(平面2次元原子秩序構造+表面原子局所秩序構造(これを0.5次元と称する))薄膜による電子・光デバイスの実現に向け本研究を開始、ごく最近、厚さ2ナノメートルの金属状態にあるアモルファス酸化物半導体薄膜を、1秒以内で成膜することに成功しました。
本学は理論の構築、成膜および膜の特性評価、住友重機械工業株式会社は反応性プラズマ蒸着法装置を基に超薄膜実現のための装置設計とプロセス開発、そして株式会社リガクはX線を用いた超薄膜評価技術の研究開発と有効性の実証を行いました。

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まず、結晶のような規則正しい配置を持たないアモルファス状態にあるガラス基板で超薄膜(厚さ 2~5 ナノメートル )を成膜・堆積。高密度アークプラズマを用いる反応性プラズマ蒸着法により、原料を原子状態とし、基板への飛来粒子を最適化しました。キーポイントは薄膜成長初期に基板上に金属粒が析出しないように制御することです。

具体的には、金属元素(以下、Mと記す)と強い引力作用を呈し、結果として化学結合をエネルギー安定な状態として形成する酸素原子(以下、Oと記す)を供給し、金属酸化物分子(MX)を形成します。MX は、組成式が MxOy(x<y)であることが必須であり、安定な分子凝集体(成長核)形成をさせないことで、アモルファス状態を実現させることがコアな技術です。 次に、厚さ 2ナノメートル から 50 ナノメートル までのサンプルを成膜し、X 線反射法や X 線回折法での評価・解析により、基板上に堆積したサンプルが膜状態であることを実証しました。現在では、厚さ 5 ナノメートル以上のサンプルで結晶化させること、かつ厚さ 10ナノメートルでは、物質中のキャリアの移動度が85.9 ㎠/(Vs) という高電子輸送にも成功しました。

今後は、第一にアモルファス状態にある超薄膜を、原子が長い距離で並ぶ秩序構造を形成させることで結晶性状態へ変化させます。第二に、この変化過程で、これまでの平面2次元原子秩序構造を呈するグラフェンなどとは大きく異なる2.5次元化への設計を図ります。最後は、キャリア輸送の支配因子の解明(すでに理論的には予測済み)および展開を図ります。

山本教授は「本技術は、ようやく人智を量子力学的世界に踏み入れることを可能にする1つのツールとなりました。それゆえに人智がなにをもたらすのか、ためされる一歩へ跳躍したいです」と抱負(That's one small step for a materials design, thereby, leading to one giant leap, for human wisdom.)を語りました。

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