2023.10. 3地域・一般 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

田上 周路准教授らが世界初、デュアル光コムを用いたバイオセンシングに成功

システム工学群の田上 周路准教授、徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所の安井 武史教授らの研究グループは、光周波数コム(以下、略称「光コム」)の光/電気周波数変換と双子の光コム(以下、略称「デュアル光コム」)のアクティブ・ダミー温度補償を用いて、高感度かつ迅速性の高いバイオセンシングに成功しました。

バイオセンサーは、生体の巧みな分子識別機能を利用または模倣した生体分子センサーで、医療・食品・環境分野など幅広く応用されています。特に、測定対象分子と分子識別部の相互作用を光学的に読み出す光バイオセンサーは、定量性が高いことや簡易で迅速な計測が可能なことが特徴ですが、新型コロナウイルスやがん細胞の超早期検出を実現するためには感度が不十分でした。
この課題を解決するため、田上准教授らの研究グループは、次世代レーザーとして注目されている光コムを、光源としてではなくセンサーとして用いることにより、世界で初めてバイオセンシングに応用しました。本研究では、光周波数により高感度なセンシングを、電気周波数により高精度な読み出しを行うとともに、デュアル光コムを用いてセンサー信号の温度ドリフト(*1)をアクティブ・ダミー温度補償(*2)することで測定環境の温度の影響を抑えることにより、新型コロナウイルスの迅速で高感度な検出を実現しました。

本手法により、新型コロナウイルスのような新興感染症や再興感染症の抗原のみならず、がんをはじめとした健康バイオマーカー、健康被害につながる食品や環境の汚染物質などの超早期検出が期待されます。

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田上准教授は、主にファイバーセンサー設計を担当。光コムへ適用し高感度を実現するセンサー構造の設計やセンサー作製装置の設計および製作を行いました。本研究について、田上准教授は「我々のセンサー技術と徳島大学の光コムとの融合によって、バイオセンシング応用としての実証が論文化されました。数年前から装置を車に積んで、何度も徳島大学へ通った甲斐がありました。これからも新たなセンサー構造を考案して、応用実証へ向けた検証を行いたいと思います」と語りました。

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【掲載論文】
題 名:Rapid, high-sensitivity detection of biomolecules using dual-comb biosensing(デュアル光コムを用いた迅速,高感度なバイオセンシング)

著 者:Shogo Miyamura, Ryo Oe, Takuya Nakahara, Hidenori Koresawa, Shota Okada, Shuji Taue, Yu Tokizane, Takeo Minamikawa, Taka-Aki Yano, Kunihiro Otsuka, Ayuko Sakane, Takuya Sasaki, Koji Yasutomo, Taira Kajisa, and Takeshi Yasui

掲載誌:Scientific Reports

掲載日:2023年9月26日

DOI :10.1038/s41598-023-41436-3

【用語解説】
*1)温度ドリフト
バイオセンシングにおける温度ドリフトは、バイオセンサー自体または生体試料の温度変化が、バイオセンサーの測定結果に影響を与える現象を指す。温度ドリフトは、バイオセンサーが正確な測定を行う際に考慮しなければならない重要な要因。

*2)アクティブ・ダミー温度補償
歪みゲージ(歪みセンサー)の温度補償に一般に使われる技術。歪みゲージは、歪みと温度の両方に感度があるため、温度変化のある測定環境での歪みを正確に計測することは困難だった。そこで、性能が等価な一対の歪みゲージを準備し、一方を歪み計測部位に取り付け(アクティブ歪みゲージ)、他方をその近傍で歪みが発生しないが温度変化は同等な部位に貼りつける(ダミー歪みゲージ)。アクティブ歪みゲージは歪みと温度変化の両方を計測するのに対し、ダミー歪みゲージは温度変化のみを計測するため、両者の差分信号をブリッジ回路で算出することにより、温度変化の影響が相殺され、歪みのみ計測が可能となる。

詳細はプレスリリースをご参照ください。

田上准教授の研究紹介はこちらから

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