2024.6.13学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

多孔性材料の二酸化炭素吸着能力に対する骨格構造の影響を解明し、英国学術論文誌の表紙に採用されました

理工学群の大谷 政孝教授、加藤 健史さん(博士後期課程2023年度修了)らが、多孔性結晶(金属有機構造体)の二酸化炭素吸着に対する「ホウ素架橋構造」の影響を解明した研究論文が、Royal Society of Chemistry(イギリス王立化学会)のMaterials Advancesに掲載され、Inside Front Coverに採用されました。

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持続可能な社会(炭素循環社会(*1))の実現において重要な技術の一つに、CO₂を回収・分離する新材料の開発が挙げられます。「金属有機構造体(MOF)」(*2)と呼ばれる多孔性結晶材料です。

大谷教授らは、様々な骨格構造を有するMOFのうち、「ZIF-8」(*3)に着目しました。ZIF-8は、ゼオライト(沸石)と類似したソーダライト(SOD)トポロジー(*4)と呼ばれる幾何構造を有した材料であり、比較的容易に合成可能なMOFの1つです。ZIF-8の結晶内部には無数の細孔が空いており、高い比表面積を示します。しかしながら、室温・大気圧程度の圧力では、ZIF-8のCO₂吸着能力は他の材料と比較して秀でたものではありませんでした。本研究では、様々な遷移金属イオン(銅、亜鉛、コバルト、マンガン)とホウ素架橋配位子(*5)の組み合わせから、同一のSODトポロジーを有する結晶を作りわけ、それらのCO₂吸着特性を評価しました。
その結果、同一のトポロジーであっても、亜鉛イオンによって形成される結晶が最も高いCO₂吸着量を示すことを明らかにしました。また、結晶内に包接された対アニオンの存在がCO₂を吸着しやすい細孔特性を示す要因の一つであることを見出しました。

一連の結果は、ホウ素架橋配位ネットワークを用いた高性能CO₂吸着材の開発につながるものと期待されます。

コメント

「研究室二期生の加藤くんとともに2018年頃から始めた思い入れのある研究テーマでしたが、ようやく一つの形として発表することができました。加藤くんを先頭に多数の学生とともに粘り強く研究に取り組んできた結果、思いがけない発見や気づきが数多くありました。現在進めている研究もここでの発見を起点としたもので、CO₂吸着材料の研究テーマは予想外の広がりを見せています。近日発表する続報もぜひご一読いただければと思います」(大谷教授)

掲載論文

題 名:Boron-imidazolate coordination networks with 3d transition metals for enhanced CO₂ adsorption capability(高いCO₂吸着特性を指向した3d遷移金属-ホウ素架橋イミダゾレート配位ネットワーク)
著 者:博士後期課程 基盤工学専攻2023年度修了 加藤 健史
    修士課程 化学コース2年 穐山 育歩
    修士課程 化学コース2021年度修了 森 文香
    修士課程 化学コース2020年度修了 小椋 雄大
    修士課程 化学コース2023年度修了 篠原 歩
    伊藤 亮孝 准教授
    大谷 政孝 教授
掲載誌:Materials Advances
掲載日:2024年1月23日
D O I :https://doi.org/10.1039/D3MA00996C
※本論文はオープンアクセスです。

表紙ページはこちらから

用語解説

*1)炭素循環社会
 化石資源の消費によるCO₂の排出を抑えるだけでなく、植物のCO₂吸収・固定に依存せず新たな科学技術によってCO₂を資源として再利用することで、CO₂排出量と吸収・再利用のバランスが保たれた資源循環型社会の実現を目指すもの。

*2)金属有機構造体
 金属イオンと有機分子が交互に規則正しく結合することで形成される結晶性材料のこと。金属イオンと有機分子の組み合わせにより、特定のガスに対する高い吸着能力など、様々な特性を示すことが知られている。これまでに約10万種類以上が報告されている。

*3)ZIF-8(Zeolitic Imidazolate Framework-8の略称)
 金属有機構造体の一種。ZIFはZeolitic Imidazolate Frameworkの頭文字をとったもの。無機固体材料の一つである「ゼオライト」と類似した骨格構造を有することが知られている。

*4)ソーダライト(SOD)トポロジー
 ゼオライトは多様な構造をもつため、材料を構成する骨格の「幾何構造(トポロジー)」で分類される。SODトポロジーは四面体の頂点を結びつけて作られる構造の一つとして知られる。

*5)ホウ素架橋配位子
 ホウ素を中心として4分子のイミダゾレート配位子が結合した四面体型の嵩高い分子。4つのイミダゾレート部位が金属イオンと配位することが可能であり、MOFのような配位ネットワークを形成することができる。

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