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- アメリカ化学会の学術論文誌に掲載 多孔性結晶における二酸化炭素の選択的吸着を制御…
理工学群の大谷 政孝教授、穐山 育歩さん(修士課程 化学コース2年・岡山県立西大寺高等学校出身)らが、多孔性結晶(金属有機構造体)における二酸化炭素(CO2)の選択的吸着を制御するホウ素ドーピング効果について明らかにした研究論文が、American Chemical Society(アメリカ化学会)のACS Applied Materials & Interfacesに掲載されました。
CO₂を効率的に回収・分離する材料は、カーボンニュートラル(*1)を実現する上で重要な技術と位置付けられています。様々なガス吸着材料のうち、高選択的にCO₂吸着・分離することが可能な「金属有機構造体(MOF)」(*2)と呼ばれる材料が近年注目を集めています。
大谷教授らは、MOFのうち、選択的なCO₂吸着を示す「ZIF-7」(*3)に着目し、そのガス吸着能力を制御する研究に取り組んでいます。今回発表した論文では、ZIF-7の結晶を構成している金属イオンの一部をホウ素に置き換えることによって、ゲート開閉型吸着(*4)と呼ばれるZIF-7に特有のCO₂吸着挙動が劇的に変化することを見出しました。ZIF-7骨格へのホウ素架橋構造の導入は、ゲート開閉するZIF-7の構造柔軟性に影響を与えるだけでなく、対アニオンが結晶細孔内に取り込まれることでCO2吸着力を高める効果があると考えられます。本研究成果は、MOFにおける選択的なCO2吸着機能の解明や、さらなる高機能な吸着材料の開発につながるものと期待されます。
【コメント】
「研究成果を学術論文として発表することができ、大変光栄です。研究を遂行するにあたり、大谷先生をはじめ、研究室の先輩・同輩にサポートしていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。今回開発した多孔性材料のCO2吸着機構の解明や、より高いCO2吸着選択性を有する多孔性材料の開発に向けて今後も研究に勤しみたいと思います」(穐山 育歩さん)
「現在進めているCO2吸着材料の研究プロジェクトの中でも、最も進捗著しい研究テーマの一つです。穐山くんが本格的にこのテーマに取り組み始めたのは2023年の春頃からでしたが、結晶合成からCO2吸着特性の評価、そして学術論文としての執筆・投稿・掲載まで、約1年で完遂しました。この研究が始まる前に加藤くんと甘中さんが結晶合成の基礎となる実験を丁寧に進めていたという点も大きかったと思います。論文としては一旦まとまるところまできましたが、未解明な点は残されていますので、今後の研究成果にも期待しています」(大谷教授)
【掲載論文】
題 名:Effect of Boron-Doping on Gate-Opening CO2 Adsorption in Zinc-Benzimidazolate Coordination Networks(亜鉛-ベンズイミダゾレート配位ネットワークのゲートオープン型CO2吸着挙動におけるホウ素ドーピング効果)
著 者:修士課程 化学コース2年 穐山 育歩
博士後期課程 2023年度修了 加藤 健史
修士課程 化学コース2年 甘中 詩乃
伊藤 亮孝 准教授
大谷 政孝 教授
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
掲載日:2024年5月6日
D O I :https://doi.org/10.1021/acsami.4c04296
【用語解説】
*1)カーボンニュートラル
化石資源等のエネルギー消費・人類の社会活動によって排出されるCO2量と科学技術等による吸収・再利用のバランスが保たれた(実質的は排出量がゼロ)状態のこと。将来的に、化石資源に依存しないCO2の循環利用による炭素循環社会(資源循環型社会)の実現が望まれている。
*2)金属有機構造体
金属イオンと有機分子が交互に規則正しく結合することで形成される結晶性材料のこと。金属イオンと有機分子の組み合わせにより、特定のガスに対する高い吸着能力など、様々な特性を示すことが知られている。これまでに約10万種類以上が報告されている。
*3)ZIF-7(Zeolitic Imidazolate Framework-7の略称)
金属有機構造体の一種。ZIFはZeolitic Imidazolate Frameworkの頭文字をとったもの。無機固体材料の一つである「ゼオライト」と類似した骨格構造を有することが知られている。
*4)ゲート開閉型吸着(Gate-opening adsorption)
CO2が圧力(分圧)に応じて結晶構造内の一部分が扉を開くように変化し、結晶の内部にCO2を取り込みながら吸着する現象のこと。CO2分圧が下がると、CO2を吐き出しながら結晶構造の入り口を閉じ、元の構造へと戻る。
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