2020.8. 3学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

伊藤講師、出馬教授らの研究グループが、他者からの印象を予想する脳のメカニズムを解明

伊藤 文人講師(フューチャー・デザイン研究所)と出馬 圭世教授(経済・マネジメント学群)、北海道大学大学院保健科学研究院の吉田 一生講師、澤村 大輔講師、境 信哉教授らの研究グループは、「他者から自分がどれくらい好かれそうか」を予想することに関わる脳のメカニズムを解明しました。
本研究成果は、2020年8月1日、John Wiley&Sonsが発行する「Human Brain Mapping」に掲載され、今号の表紙を飾りました。

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人は様々な場面で、将来もたらされる「他者からの評判」を予想して行動を選択しています。こうした行動は人間の社会生活に深く関わっていますが、そのメカニズムについては不明な点が多くありました。そこで、研究グループは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)※1を利用した脳活動の実験と、参加者同士が対面して会話を行う行動実験により、これらの不明点について検証しました。

fMRI実験では20歳代の大学生43名(男性22名、女性21名)で実施し、MRIの中で約60名の様々な異性の人物の顔写真を1枚ずつ呈示されました。その後、それぞれの顔写真を改めて見て、「それぞれの人物がどれくらい魅力的か」「好み」「もっと話したい」の3つのカテゴリを用いた7段階の印象判断と、「それぞれの人物からどれくらい好かれそうか」といった、その人物からの7段階の印象予想の評定を行いました。会話課題では参加者全員が男女別に着席し、席を移動しながら異性全員と3分間の会話を行いました。終了後、顔呈示課題と同じように、7段階の印象判断と印象予想の評定を行いました。

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図1 印象評定の相関解析の結果

一連の研究によって、人は短時間話をするだけで相手が自分のことをどう思っているかをある程度正確に予想することができ、「他者から自分がどう思われていそうか」 という予想プロセスには腹内側前頭前野※2が関わっていることが明らかになりました。本研究結果は、これまで困難であった相性の科学的理解を進めるうえで基礎的な知見となります。また、自閉症スペクトラム障害や対人恐怖症など他者とのコミュニケーションに困難さをもつ人々をサポートするための腹内側前頭前野の機能に着目した認知的トレーニング手法の開発にも応用されることが期待できます。

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図2 脳データの解析結果

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【論文情報】
掲載紙:Human Brain Mapping, Volume 41, Issue 11, August 1, 2020
論文タイトル:The role of the ventromedial prefrontal cortex in automatic formation of impression and reflected impression
著者:Ayahito Ito, Kazuki Yoshida, Kenta Takeda, Daisuke Sawamura, Yui Murakami, Ai Hasegawa, Shinya Sakai, Keise Izuma
DOI:10.1002/hbm.24996

*1 機能的磁気共鳴画像法(fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging))
東北福祉大学の小川誠二博士により発見されたBOLD効果の原理を用いて脳の中で活動した場所を可視化する手法です。ある特定の脳領域が活動すると、その領域で酸素が消費され、消費された酸素を補うための血液の流入(過剰な酸素供給)が起こります。こうした脳の血流動態の変化が起こった領域をMRI で捉えることができる手法がfMRI(機能的磁気共鳴画像法)です。非侵襲的な脳活動の可視化手法の中で、最も優れた手法の一つです。

*2 腹内側前頭前野
脳の前方にある前頭前野は、思考や創造性、価値判断など人間を人間たらしめる極めて重要な領域です。この領域の腹内側部(内側の下方部)が腹内側前頭前野と呼ばれています。この領域は感情の制御や自己認識など様々な役割を果たしていますが、他者に対する印象に関わる情報の処理にも関わっていると考えられています。

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