2022.1.28学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

地村客員准教授、中原教授、竹田特任教授らの研究グループが、複雑な意思決定における認知機能の役割を解明

本学の地村 弘二客員准教授(慶應義塾大学准教授)、松井 鉄平准教授(岡山大学)、服部 芳輝氏(慶應義塾大学 修士課程1年)、本学の総合研究所 脳コミュニケーション研究センター中原 潔教授竹田 真己特任教授らの研究グループは、ヒトが複雑な状況で意思決定を行うとき、将来の不確実性が低いと、前頭・頭頂皮質の認知の制御機構により意思決定の方略が切り替わり、選択に偏りが生じることを発見しました。
本結果は、どのような要因を考慮して意思決定を行うかが、状況に応じて認知の制御機構により切り替わることを示しており、ヒトの意思決定と認知の柔軟性を例示しています。この研究は学術論文誌NeuroImageの速報版で1月8日発表されました。

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(ギャンブル条件例)

私たちは、日常において意思決定と選択を繰り返しています。意思決定では、どのくらい確率的な不確実さがあるか(不確実性)、重要な事象が起こるまでどのくらいの時間がかかるか(遅延時間)が重要な要因とされています。とりわけ、金銭や食べ物などの報酬が関わる意思決定では、不確実性と遅延時間は選択に大きな影響を与えることが知られており、不確実性はリスク選好、遅延時間は衝動性が関わると考えられています。

行動経済学において、意思決定における不確実性と遅延時間の影響は、長らく別々に研究されてきました。しかし、私たちの日常生活における意思決定の状況ははるかに複雑です。一方で、本研究グループは、意思決定が難しい状況では、要因の構造が単純であっても、要因を評価するための認知的な計算負荷が大きくなり、前頭前野における認知の制御機構が重要な役割を果たしていることを2018年に明らかにしました(参考文献1)。そこで今回、不確実性と遅延時間が同時に変化するような複雑な意思決定では、認知の制御機構がどのような役割をするのかという問いを立てました。

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(複雑な条件下での意思決定時の脳活動)

本研究グループは、当たる確率、遅延時間、賭け金、獲得金の4つの要因が変化するギャンブルの状況を作成し、要因の数や条件を変更し、ヒト被験者に対して、これらの与えられたギャンブル条件に応じるかどうかを意思決定することを要求しました。そして、機能的MRIを用いて、このギャンブルに関する意思決定を行っているときの脳活動を計測しました。その結果から、複雑な状況での意思決定では、前頭・頭頂皮質による認知の制御により、柔軟に方略が変化することを導きました。

意思決定に認知の制御がどのように関連しているかという問題は、ヒトに特有な高度な情報処理の脳機構がリスク選好や衝動性に関係しているのかという点において重要です。解くべき問題は多くありますが、問題を解いていくことにより、認知の制御機能が、病的なギャンブルや薬物・アルコール乱用などを予防・改善につながることが期待されます。

プレスリリースはこちらからご覧いただけます。

<参考文献>
1. Jimura K, Chushak MS, Westbrook A, Braver TS (2018) Intertemporal decision-making involves prefrontal control mechanisms associated with working memory. Cereb Cortex 28, 1105-1116.

【原論文情報】
Matsui T, Hattori Y, Tsumura K, Aoki R, Takeda M, Nakahara K, Jimura K (2022) Executive control by fronto-parietal activity explains counterintuitive decision behavior in complex value-based decision-making. NeuroImage 249, 118892.
本論文はオープンアクセスとなっており、こちらからご覧いただけます。

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