2022.7.22地域・一般 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

肥前 洋一教授の論文がJohn Wiley & Sonsにより「Top Downloaded Article 2019-2020」の一本に選出されました

経済・マネジメント学群の肥前 洋一教授の論文「A Referendum Experiment with Participation Quorums(最低投票率が課された住民投票の実験)」が、アメリカ合衆国の学術出版社John Wiley & Sonsにより「Top Downloaded Article 2019-2020」の一本に選ばれました。

これは、John Wiley & Sonsが出版している学術誌ごとに、2019年1月1日から2020年12月31日の期間に掲載された論文の中から、掲載後1年間のダウンロード数が多かった論文を選出するものです。対象になった肥前教授の論文は、政治経済学分野の学術誌『Kyklos』に掲載された論文の中で、上記期間のダウンロード数が多かった上位10本のうちの一本となりました。

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肥前教授は、経済学の論理で政治制度を分析しています。特に、投票のルールに焦点を当てて、様々なルールのもとで人々がどのように振る舞うか、それを踏まえてどのようなルールが望ましいかをテーマとしています。選挙や住民投票を数理モデルとして表現して理論的に分析したり、実験室に実験参加者を集めて様々なルールのもとで投票してもらったりするなどの研究手法に特色があります。

今回選出された論文では、賛否を問う国民投票・住民投票でしばしば課される最低投票率が、有権者の投票行動と投票結果にどのような影響を与えるかを実験室実験により検証しました。最低投票率とは、投票率があらかじめ定められた水準(多くは50%)を下回ったら投票自体が不成立になるというルールです。この最低投票率が高く設定されると、事前の予想で自分たちが少数派であると見込まれた賛成派または反対派の有権者グループが投票の不成立をねらって棄権し、投票が不成立になりやすいことが示されました。さらに、有権者数が増えるとそのような棄権が積極的に行われるようになり、ふたを開けてみると、事前の予想に反して多数派だった有権者グループが、事前の予想で少数派であると見込まれたために棄権して負けてしまうケースが生じることも観察されました。

最低投票率は、低い投票率での賛否の決着を回避したいときに課されますが、同時に上記のような棄権の誘因も生んでしまいます。そのような棄権を誘発しないためには、有権者たちが「いずれにせよ投票率は最低投票率を上回って投票が成立するだろう」と見込める程度の最低投票率を課すことが推奨されます。

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肥前教授は、「取り組んでいる研究者数が多くはないテーマであるため、ダウンロード数の多さに驚きました。要因として考えられるのは、学術誌の購読契約をしていなくても誰でも読めるオープンアクセスという出版形態にしたことや世界の国々が最低投票率をどのくらいの水準に設定しているのかをまとめた表を作成して論文の冒頭に掲載したことです。もうずいぶん前の話になりますが、低投票率による不成立が危惧されているという住民投票のニュースを見て、賛否どちらが勝つかではなく成立するかを心配しないといけない最低投票率とは不思議なルールだなと思いました。調べてみると日本だけではなく海外でも用いられていることを知り、このルールのもとで人々がどのように振る舞いどのような結果が実現されやすいのかを調べる必要があると研究テーマを着想しました。今回の選出を励みにして、研究者として自分にどれだけのことができるのか、今後も挑戦を続けていきたいと思います」と語りました。

掲載論文はこちらからご覧いただけます。

肥前教授の最先端研究紹介「政治学独自の実験手法を創出し、「実験政治学」を確立したい」はこちらからご覧いただけます。

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