2019.12.20在学生・保護者 / 地域・一般 / 地域貢献 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

秘密分散と秘匿通信技術を用いた電子カルテ保管・交換システムを開発

国立研究開発法人情報通信研究機構と高知県・高知市病院企業団立高知医療センター、本学福本 昌弘教授(情報学群)及び連携協力機関から成るチームは、秘密分散技術*1と秘匿通信技術*2を組み合わせることにより、電子カルテデータのセキュアなバックアップと医療機関間での相互参照、災害時の迅速なデータ復元を可能とするシステム(H-LINCOS: Healthcare long-term integrity and confidentiality protection system)を開発しました。

福本教授は本研究において、H-LINCOSの要件定義と秘密分散方式の設計の役割を担いました。

このシステムを用いた実証実験では、800km圏のネットワークで結ぶ高知医療センターと大阪、名古屋、大手町、小金井にあるデータサーバに、1万人分の電子カルテの模擬データを分散保管しました。次に、南海トラフ地震等により四国エリアが被災したというシナリオの下、それぞれのデータサーバから処方履歴、アレルギー情報などの災害時医療に必要とされるデータ項目を小金井のサーバ上に復元し、衛星回線経由で高知医療センターの端末に伝送しました。その結果、高知医療センターの端末で患者検索してから9秒以内で医療データを復元することに成功しました。これは、救急時の猶予時間といわれる15秒程度の要求に応えるものです。

図1.png
(実証実験に用いたネットワーク接続図と性能評価結果実証実験に用いたネットワーク接続図と性能評価結果)

今回の結果により、災害時に必要な医療データを迅速に届けることが可能になり、災害医療に大いに役立つことが期待されます。また、地上網が使える平時においては、医療機関の間で電子カルテデータを相互参照することが可能になります。

福本教授は「これからの量子コンピューティングの時代にも安心して個人情報を預けられる秘密分散法と耐量子暗号を組み合わせたこのような取り組みは非常に重要であり、災害時にも有効に活用できる技術として広めていきたいです」と抱負を語りました。

プレスリリースはこちらから

*1 秘密分散技術
原本データを無意味化された複数(n 個)のデータ(シェア)に分割し、異なるデータサーバに分散保管する技術。危殆化するデータサーバの数は、ある閾値(k 個)未満であり、かつ、データサーバ間は完全秘匿回線で結ばれていると仮定した場合、どんな計算機でも破れない機密性を実現できる。n-k個以下のサーバが棄損しても、残ったk個のサーバからシェアを集めることで、原本データを復元できる。一方、k個以上のシェアがそろわないと原本データは復元できない。

*2 秘匿通信技術
通信路を盗聴された場合でも伝送されるデータの機密性が保たれるように、適切な暗号技術を用いてセキュアに通信する技術。現在主に使われているのは、共通鍵暗号を用いる秘匿通信であるが、計算機が高度化すると解読される危険性がある。近年、量子暗号も用いられるようになってきた。量子暗号は、どんな計算機でも解読できない暗号技術である。

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