2021.6.28研究 / 研究者・企業

脳機能データを用いた人工知能アルゴリズムで男女の相性予測に成功

京都工芸繊維大学の梶村 昇吾助教、高知工科大学の伊藤 文人講師出馬 圭世教授(共にフューチャー・デザイン研究所)の研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)1を利用した脳活動計測実験と参加者同士が対面して会話を行う行動実験により、初対面の男女が会話した際の相性を、事前に取得した脳機能データの類似度を用いた人工知能アルゴリズムによって一部予測可能であることを明らかにしました。

異性間の相性は予測が困難であり、これまで100以上の心理特性・嗜好等の自己報告データを用いても予測できないことが示されていました(Joel et al., 2017)。この研究成果により,相性の良いパートナーを効率的に見つけるマッチング支援サービスへの展開が期待されます。また、本提案手法を応用することで、友人関係や仕事関係など幅広い対人関係における相性予測への展開や、他者との関係構築における支援方法の開発につながることが期待できます。ただし、本研究における相性の予測精度や相性の定義(また話したいと思ったかどうか)は限定的であったことから、本提案手法の再現性・有益性・応用可能性についてさらなる検証を行う必要があります。

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相性の良いパートナーを見つけることは容易ではなく、新たな出会いを支援するマッチングサービスは一大経済市場を形成しています。その中には、利用者が自己報告した心理特性や嗜好等の情報に基づいた相性予測システムを提供しているサービスもあります。しかし、それらのシステムに科学的妥当性はなく、実際に100以上の自己報告データを用いても異性間の相性を予測することはできないことが示されていました(Joel et al., 2017)。その他の研究からも、自己報告による相手の好みと実際に選択した相手は必ずしも一貫しないこと(Todd et al., 2007)や、自己報告データの類似度と実際に会話した際に知覚した類似度は一致しないこと(Tidwell et al., 2013)など、自己報告データを用いた相性予測の限界が示されていました。

自己報告データの限界を克服し、相性予測を実現しうる情報源として、本研究グループは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による安静時脳機能計測データに着目しました。安静時脳機能は、安静状態の脳機能を10分程度計測するのみの簡潔さにも関わらず、多様な社会認知課題に対する脳活動パターンを予測しうる豊富な情報を有していること(Cole et al., 2016)から、実際の会話における行動傾向に関する情報といった、自己報告データでの測定が難しい情報を介して相性を予測しうると考えられました。

【実験方法(図1)】
fMRI実験は20歳代の大学生43名(男性22名、女性21名)で実施しました。実験参加者は、MRIの中でスクリーンに提示される十字マークを見るよう指示され、その間の脳活動が10分間にわたって計測されました。後日実施した会話課題では、参加者全員が集合し、座席を縦に4列に並べて男女別に着席してもらいました。この会話課題では、目の前の参加者と3分間の会話を行った後に次の席へ移動し、また目の前の異性の参加者と3分間の会話を行うということを異性全員と話し終えるまで繰り返しました。参加者はすべての会話終了後に、また話したいと思った異性を半数以上選ぶよう求められました。

【データ解析(図1)】
実験終了後のアンケート結果から、お互いにまた話したいと思ったペアを相性のよいペア、それ以外を相性がよいとは言えないペアとラベリングしました。安静時脳機能データは、周波数解析により4周波数帯に分解し、それぞれについて領域間の機能的結合プロファイル※2を計算した後、異性間ペアごとに機能的結合プロファイルの類似度を計算しました。その後、人工知能アルゴリズム(Elastic-net正則化ロジスティック回帰)によって、異性間ペアの類似度から相性の良し悪しを学習・予測し、統計的有意性についてパーミュテーション検定※3によって検定しました。

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(図1 研究の流れ)

検定の結果、相対的に速い周波数帯の類似度を用いることで、異性間の相性を有意に予測できることが示されました(図2)。本結果は、安静時機能的結合プロファイルの類似度が、自己報告データで測定することが難しい情報、例えば男女が実際に会話をした際に示す行動傾向に関する情報を有している可能性を示しています。また、相性の予測に貢献した機能的結合について調べたところ、感情・社会情報処理、他者の顔認知、心的状態の推測など多様な社会的認知に関連する脳内ネットワークの強い寄与が明らかとなりました(図3)。

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(図2 機能的結合プロファイルによる相性の予測正答率。実データの正答率とランダムデータの正答率との差分を分布として表示。各周波数帯の縦線:チャンスレベル,*:p < 0.05)

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(図3 相性予測に貢献した機能的結合プロファイルの類似度まとめ。(A/A') 相性予測が有意であった各周波数帯において、相性予測に寄与した機能的結合。赤と青の線は、それぞれ類似性に基づく寄与と相違性に基づく寄与を表す。円上のドットは脳領域を表し、その大きさは脳領域が関与した有意な結合の総数で定義した。(B/B') 相性予測に対する脳領域レベルの貢献度。暖色と寒色の脳領域は、それぞれ脳領域による類似性と相違性に基づく寄与の数を示す。(C/C') 脳内ネットワークから見た、分類に寄与する機能的結合の割合。赤と青のマトリックスは、それぞれ類似性に基づく寄与と相違性に基づく寄与の結果を表示している。Vis: 視覚ネットワーク, Som: 体性感覚運動ネットワーク, Sal: 感覚ネットワーク, Lim: 大脳辺縁系, Con: 実行制御ネットワーク, Def: デフォルトモードネットワーク, Cer: 小脳。)

本研究により、心理尺度等の自己報告データでは予測できなかった異性間の相性を、安静時機能的結合プロファイルの類似性から一部予測できることが初めて示されました。この研究成果により、相性の良いパートナーを効率的に探すマッチング支援サービスへの展開が期待できます。また、本提案手法を応用することで、友人関係や仕事関係など幅広い対人関係における相性予測への展開や、他者との関係構築における支援方法の開発につながることが期待できます。
ただし、社会応用に向けては研究手法のさらなる改善に加え、利用者の意思の尊重やプライバシーの確保など倫理的な側面に配慮する必要もあり、慎重な検討が必要と考えられます。あくまでも基礎研究の段階にあり、即座に社会応用できる技術ではありません。

※1 機能的磁気共鳴画像法(fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging))
東北福祉大学の小川誠二博士により発見されたBOLD効果の原理を用いて脳の中で活動した場所を可視化する手法です。ある特定の脳領域が活動すると、その領域で酸素が消費され、消費された酸素を補うための血液の流入(過剰な酸素供給)が起こります。こうした脳の血流動態の変化が起こった領域をMRIで捉えることができる手法がfMRI(機能的磁気共鳴画像法)です。非侵襲的な脳活動の可視化手法の中で、最も優れた手法の一つです。

※2 機能的結合プロファイル
fMRIによって計測された脳活動の時系列シグナルについて、領域間の相関値を計算することができます。これを機能的結合と呼びます。全ての領域間ペアで機能的結合を計算することで、領域数x領域数の機能的結合プロファイルを得ることができます。

※3 パーミュテーション検定
相性がよい(1)、よいとは言えない(0)のラベルをランダマイズしたデータで同様の学習・予測を繰り返し行い、正しいラベルの正答率ランダムラベルの正答率に比べてどれだけ高いかによって有意性を評価する方法です。

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