2022.3.16卒業生 / 地域・一般 / 学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

西川 泰弘助教、山本 真行教授らが世界で初めて音(インフラサウンド)の観測から人工天体帰還カプセルの軌道を決定することに成功

本学システム工学群の西川 泰弘助教山本 真行教授、大学院博士後期課程基盤工学コース3年のIslam Hamamaさん、京都産業大学情報理工学部の瀬川 典久准教授、北海道情報大学情報メディア学部の柿並 義宏教授らの研究グループは、「はやぶさ2」の地球帰還時の衝撃波を観測した超低周波音(インフラサウンド※1)のデータ分析を実施し、帰還カプセルの軌道を決定することに成功しました。

図2衝撃波の広がりと軌道.png

(図1 衝撃波の広がり方と帰還カプセルの軌道)

2020年12月6日「はやぶさ2」により小惑星リュウグウで採取したサンプルを格納したカプセルが、地球(オーストラリア)に帰還しました。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は同カプセルが大気圏に突入・飛行する間、カプセルを回収するためのビーコン電波の精密測定や地上光学観測等による正確な軌道の測定の他、突入時の表面温度など様々な観測・実験を行うため、研究テーマを公募しました。山本教授らは、公募に採択された「はやぶさ2地球帰還時の衝撃波による微気圧波及び励起地震動の精密観測と軌道決定」についてJAXAとの共同研究を進めてきました。
カプセル帰還時は、世界的に新型コロナウイルス感染の影響によりウーメラ周辺の現地に赴くことが不可能となったため、山本教授は自らが開発した実験装置であるインフラサウンド(超低周波音)センサー28台と、山本研究室所属の学生(井上 祐一郎さん、大学院修士課程電子・光工学コース2021年修了)が開発した21台を含む計28台の小型収録装置などの関連機器群をオーストラリアのCurtin大学に送り、観測を全面委託する形で共同研究を実施しました(図2) 。

図1学生が開発したデータロガー.png

(図2 INF04と高知工科大学の学生が開発・製作した小型収録装置)

観測内容はインフラサウンドセンサー28台と簡易型の地震計7台、および絶対圧力計2台を駆使し、大気圏突入後に超音速でカプセルが上空を通過する際に生成される衝撃波を金沢大学等と共同して分析しました。さらに茨城大学との共同研究では、突入時の高密度プラズマから自然発生する電波の有無を検証し、日本大学との共同研究ではカプセル大気圏突入時の発光過程や表面温度等の精密測定を実施しました。

その後カプセル帰還時のデータを分析し、各地点でのインフラサウンドの到達時刻差や高層大気中での超低周波音の伝播シミュレーション計算から軌道を決定することに成功しました。本研究成果のポイントは3つあります。

一つ目は、インフラサウンドの観測からカプセルの軌道を高精度で決定できたことです。後方から迫ってくる車の距離と方向を耳で聞いた音から察することができるように、インフラサウンドの観測から物体の距離と方向を決定することができます。今回の観測では28個の耳(インフラサウンドセンサー)を用いて「はやぶさ2」のカプセルの距離、方向、速度を決定しました(図1)。これにより従来のビーコンやカメラでの観測に次ぐ、新たな軌道決定手法が確立できました。インフラサウンドを用いての観測は、ビーコンの故障時、悪天候によるカメラ観測が難しい場合の補助機器として役に立つ他、ビーコンの取り付けられていない自然物体を観測することができます。実際に、2021年の12月6日に伊勢の上空で火球(明るい流星)らしき光とその爆発音のようなものが観測されましたが、同時刻は全国的に曇天であり、カメラによる軌道決定はできませんでした。この場合でも、我々の研究グループは京都大学防災研究所、日本気象協会と共同でインフラサウンドと地震波の観測からその火球の軌道を決定することに成功し、三重県の志摩半島沖に落下したと結論づけることができました。

図3オーストラリア設置.jpg 

(図3 「はやぶさ2」カプセル帰還時に設置した小型のインフラサンドセンサー等(INF04))

二つ目は持ち運び可能な小型軽量のセンサー(INF04)を用いた多点観測の成功です。従来のインフラサウンドセンサーは、大型で重く、移動や設置に大変な労力が必要でした。しかし、今回用いた本研究室開発のINF04は移動可能な多点インフラサウンド観測を実施でき、「観測できる場所」ではなく「観測したい場所」での観測を行うことができました(図3)。

三つ目はサイレントフライトという新たな概念(呼称)の確立です。以前から流星などの超高速の飛行物体が大気圏を通過する場合、音と光を出すことは知られていました。しかしその音を出す条件と光を出す条件の関係性はよくわかっていませんでした。 今回の「音」の解析結果から、光を出す時間よりもカプセルが音(インフラサウンド)を出す時間が、約1秒、距離にして10km程度長かったことを発見しました(図4)。この新たな「聞く」という視点から、流星などの飛行物体が超音速で大気中を通過した場合のエネルギーの放出や融解、崩壊現象について、「見る」ことしかできなかったこれまで以上に理解が深まります。

図4従来の流星観測の考え方と今回観測された帰還カプセル(流星)の状態.png

(図4 従来の流星観測の考え方と今回観測された帰還カプセル(流星)の状態。光と音の両方を注目することによって、光ってはいないが音(インフラサウンド)を出している区間を発見した。)

これにより、形状や素材が既知のカプセルが人工流星として大気圏に突入する際の地球大気との相互作用に関する物理プロセスや衝撃波のエネルギーを解明することが可能となり、また、最適な観測地点配置の決定に重要な役割を果たします。さらに光学観測と比較することで、計測の難しい高度の大気状態を知ることもできます。また、2022年度の冬には今回用いたINF04をドローンやヘリコプターを使って南極の大陸や氷河に設置する予定です。将来的には他の惑星などの人が到達するのが困難な場所にもインフラサウンド観測ネットワークを形成し、「観測したい場所での観測網」を広げていきます。

本研究成果は、2022年2月12日に日本天文学会が刊行する学術雑誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載されました。

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(写真1枚目:左からIslamさん、西川助教、山本教授/2枚目:左は小型のインフラサンドセンサー(INF04)、右は初期のインフラサンドセンサー(INF01))

西川助教は「意義のある研究成果を発表することができ嬉しいです。仮説どおりの解析結果が出た時には、何度も確認するほど驚きました。いつか火星にインフラサンドセンサーを持っていき、流れ星を観測したいと思っています」と語りました。

プレスリリースはこちらから

山本 真行教授の最先端研究「民間開発ロケットが『インフラサウンド』の可能性を拓く」はこちらから

※1 インフラサウンド
インフラサウンドとは周波数 20 [Hz]以下の音である。人間の可聴域は 20 [Hz]から 20 [kHz]程度であるため、インフラサウンドは人間には聞こえない可聴域未満の音である。インフラサウンドは、特性周波数が低いため長距離伝搬できる特徴がある。インフラサウンドは、火山噴火、地震、津波、落雷、土砂崩れ、大規模爆発などの災害をもたらすような事象によって発生することが知られており、これらをリモートセンシングすることで、災害の早期探知や規模解析を行うなど、減災に活用できると考えられる。

【論文情報】
掲載誌:Publications of the Astronomical Society of Japan 論文タイトル:Modeling of 3D trajectory of Hayabusa2 re-entry based on acoustic observations(インフラサウンド観測によるはやぶさ2帰還カプセルの軌道決定)
著者:Yasuhiro Nishikawa, Masa-yuki Yamamoto, Eleanor K Sansom, Hadrien A R Devillepoix, Martin C Towner, Yoshihiro Hiramatsu, Taichi Kawamura, Kazuhisa Fujita, Makoto Yoshikawa, Yoshiaki Ishihara, Islam Hamama, Norihisa Segawa, Yoshihiro Kakinami, Hiroshi Katao, Yuichiro Inoue, Philip A Bland
DOI:https://10.1093/pasj/psab126

【関連論文】 Sansom, Eleanor K., et al. "The scientific observation campaign of the Hayabusa-2 capsule re-entry." Publications of the Astronomical Society of Japan 74.1 (2022): 50-63.

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